魔剣との契約-2
すると、ノクティスはメイドたちに足早に近づいて、入浴と手当ての準備と客室の準備を言い渡した。
客室のベッドで全裸で顔向けになっているミレイユに、ノクティスは目を閉じて胸の下の脇腹に手をかざしている。
「ありがとう。ずいぶん楽にになった」
「まだ、そのまま起き上がらず、お休みになられていて下さい。お食事の準備ができましたら、お召物を用意させますから食堂までお越し下さい」
ノクティスが退室するとミレイユは目を閉じた。もしかすると、試練の3日間が過ぎてしまい、ダンジョンから出されてしまったのかもしれないと思いながら、眠りに落ちた。
ミレイユは、ダンジョンに潜ってから、ずっと眠らずに歩き続けていた。緊張がほどけると、疲労感が一気にミレイユを深い眠りに誘った。
胸元はそうでもないが、背中が開いた赤いドレスと下着を用意され、ミレイユは食堂に向かった。
「ああ、とても、お似合いですわ」
ノクティスは満面の笑みを浮かべて、ミレイユのドレス姿を見つめた。
食事をしながら、ミレイユはダンジョンに潜っていたことや、3日で強制的にダンジョンから救出されることを、聖騎士の試練に関することを省いてノクティスに説明した。
「実は貴女のおっしゃるゼルキスという国について、私たちは存じ上げておりません。とても遠くの国なのかもしれません。ここはアスタロス王国。近くの街までは、森を抜けて4日ほどかかります」
ノクティスから聞いた王国の名前を、ミレイユもわからなかった。
「どちらにしても、今は体を休めて、元気になられてから。街へ行ってみたら良いと思われます。それまではここで、私の話相手をして頂けるとありがたいですわ。私とメイドたちしかいない屋敷ですから、遠慮は無用です」
「感謝します。ノクティス様」
「ふふっ、私のことは、ノクティスとお呼び下さい。勇敢な騎士様」
「では、私のことも、ミレイユとお呼び下さい」
翌日から、ミレイユはダンジョンでの遭遇した敵のことを、ノクティスにせがまれて話した。
アスタロス王国の外には、いろいろな魔獣がいるが、国境には結界があり、王国内には魔獣は侵入できないと、ノクティスは、ミレイユに地図を書斎で広げて話をしてくれた。
(地形は似ている。しかし、街の名前も場所もちがう。どういうことだ?)
夜、眠る前になると、ノクティスはミレイユの客室に来て、熱心に魔法で治療をしてくれていた。
ミレイユがベッドで全裸になって横たわり、ノクティスがゆっくりと傷の上に手のひらをかざす。
ミレイユの全身の傷は、6日目の夜にはすっかり回復して傷痕も残さず消えた。
「ノクティス、ありがとう。本当に世話になった。明日の朝、私はここを出るつもりだ」
ベッドで身を起こすと、ノクティスがミレイユに抱きついてきた。
そのまま、ノクティスに唇を奪われる。
「ミレイユ、このまま、私とここにいてくれませんか?」
目を潤ませて、ノクティスは囁くと、もう一度、唇を重ねてきた。
ぞくっ、とミレイユの背にくすぐったいような快感が這い上がった。
「私は貴女を気に入ってしまいました。貴女が欲しい」
ノクティスのしなやかで華奢な手が、ミレイユの乳房を揉み上げる。
「あぁ、ノクティス、あんっ!」
「逃がしませんわ、貴女は私のもの」
ベッドで押し倒されて、ノクティスがミレイユの首筋に唇と舌を這わせていく。
ミレイユはこうした行為をしたことがなかったので、戸惑いながらも、愛撫の快感に身悶える。
「気持ちいいでしょう、ミレイユ」
ノクティスがミレイユの股間に手をのばして、指先をそっとすべらせた時、ミレイユは必死に、ノクティスの体を押しのけた。
「なぜ、貴女は私のすべてを受け入れてくれないの?」
ベッドの上に座ってうつむいたノクティスが少し震える声で言った。
そして、衣服を脱ぎ始める。
下着姿になったノクティスが、ミレイユの手首をつかんで、左胸に手を当てさせると微笑した。
「ノクティス……貴女は魔物なのか?」
ミレイユの手に伝わってくるはずの、鼓動が伝わってこない。
ぬくもりや柔らかさはあるのに。
ミレイユがあわてて手を引き、ベッドから離れて、全裸で剣を手にする。
「ミレイユ、私を殺すつもりなの?」
華奢でかわいらしい女性の姿の敵に、ミレイユはドラゴンと対峙した時よりも、緊張して身構えていた。
ノクティスは下着も脱いで全裸になり、剣を構えて、切っ先を向けているミレイユに、両手を広げた。
微笑を浮かべたまま、涙をこぼして。
この瞬間、ミレイユは聖騎士の最後の試練の意味を理解した。
ミレイユは剣を静かに下ろしてから、ノクティスに背を向けた。
ノクティスの悲鳴が部屋に響き渡った。
ミレイユは剣の刃を自分の喉元に当て、思いっきり引いた。
激痛。
急激に血を失ったので、貧血を起こし、目の前の視界が闇に狭まっていく。
剣が手から離れる前に、ノクティスがミレイユの背中に抱きついた。
「貴女は私が、絶対に死なせない!」
ミレイユは全裸で、自分の血で胸元を濡らした凄絶な姿で、神殿の儀式の間に立っていた。
その手には、自らの喉元を裂いた剣が握られていた。
剣は、漆黒に色を変えていた。
ミレイユの首には傷痕すらない。
10日間、魔法陣の部屋で交代で呪文の詠唱を続けていた神官たちが、ミレイユの出現に詠唱を止めた。
「ミレイユ様、よくぞ聖騎士の試練を乗り越え戻られました」
神官マルティナや他の神官たちも全員で聖騎士の前に片膝をつき、頭を下げ涙を流していた。
ミレイユはゆっくりと手にしている剣に目を落とした。
(ああ、ノクティス、また私の命を救ってくれたのか?)
漆黒の魔剣ノクティスをミレイユは手に入れた。