ターレンの皇子-1
南の小国ターレンの王ローマンの崩御。
ローマンは後宮で死んでいた。
牢獄に捕らえられた、元侍女のアーニャは暗い牢部屋の中で皇子の約束を信じて待っていた。
食事に遅効性の毒を入れられていると知らずに、食後の酒まで楽しんだ王は、城を出て後宮へ向かった。
「そなたはまだ処女だと聞いておる。その純潔を、このターレンの王に捧げるがよい!」
「くっ、うぅっ、痛いです、王様」
「くくくっ、よい締まりをしておる。これはたまらんのぉ」
アーニャに射精した王が胸を押さえて、白目を剥いて絶命した。
その寝室へ踏み込んできた兵士たちにアーニャは拘束されて、城の牢獄に入れられて3日目の夜であった。
「……アーニャ」
3日間、水も食事を絶たれて、できるだけ体力を維持しようと眠っているアーニャに、牢部屋に入ってきた青年が声をかける。
「あ、ああ……」
青年は抱きついてきたアーニャの髪を撫で唇を重ねた。青年は、兵士と同じ身なりをしている。
「私は無実なのです。信じて下さい」
「もちろんだ。私はアーニャをここから必ず出してやる。アーニャのために、水と食糧を持ってきた」
王への奉仕の真っ最中に拘束されてきたので、全裸のままで投獄されていた。
「あぁっ、いけません、こんな汚れた体を……んあっ!」
「かまうものか」
青年はアーニャを股間をまさぐり、小ぶりな乳房を揉んだ。
にちゅっ、と青年の指先がアーニャの秘裂から、さらに愛液を溢れさせる。
(美しい娘だが、しかたがない。最後に楽しませてもらうとするか)
青年は身につけていた皮鎧や衣服を脱いで全裸になると、しゃがんだアーニャに勃起したものを咥えさせた。
「アーニャ、くっ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
口の中に熱い精液を放ち、まだ脈打つものをアーニャは咥えたまま離さない。
こくっ、と青年の精液を飲み込んだ。
(アーニャの口の奉仕は、俺がじっくり仕込んだだけあって絶品だな)
アーニャは国王殺害の罪で、民衆の前で処刑された。広場に立てられた柱に縛りそうつけられ、火炙りにされた。
「罪人よ。最後に何か言っておきたいことはあるか?」
アーニャは処刑人に答えることができなかった。青年が運んできた食糧と水には毒が仕込んであった。
視力はほとんど失われ、喉が潰されて声を奪われていたからである。
アーニャは皇子に利用されて殺された。
王城に仕える若く美しい侍女アーニャをわざとらしく、父王に薦めたのも皇子だった。
アーニャと皇子が密かに関係を持っている噂はあるが、アーニャがまだ処女だと後宮の愛妾から王の耳に入れさせた。
皇子には、北のゼルキスの王家からの令嬢を娶らせるつもりでいたローマンは、アーニャを後宮に入れ、皇子から引き離すことにした。
「明日の夜、あの娘の純潔は私がもらって、今後も大事に庇護してやろう」
ローマンは皇子を呼び出し、人払いをして言って笑っていた。
アーニャの処刑を、民衆に混ざって見物した皇子は、マダム・シャンリーの娼館へ立ち寄った。
毒物を調達したマダム・シャンリーと今後の策略を話し合うためであった。
皇子ランベールが王に就任して、1ヶ月後、ターレンの民衆に対して、北の小国
ゼルキスが国境地帯で、ターレン王国に属する村を焼き討ちにしたと伝え、北からの侵略を許すわけにはいかない、戦のために、民衆からも兵士を募集すると宣言した。
傭兵ガルドとマダム・シャンリーが村を焼き討ちにしていたのは、この新王の宣言のためだった。
宿場街で噂をしていた獣人族の商人たちは、この宣言が出されると、ターレン王国から逃げ出した。
王位を簒奪したランベールの気がかりは、傭兵ガルドの存在であった。
ランベールが、ニアキス丘陵地帯周辺の村を、どちらに属していようと焼き討ちにさせた。それを知る生き証人が、傭兵ガルドだからである。
(どうにかして、傭兵ガルドを始末することができないか?)
マダム・シャンリーは、傭兵ガルドを始末する報酬として、後宮に愛妾として入れてもらう約束を取りつけた。
ランベールは妖艶な美女のマダム・シャンリーを始末するのは惜しいと思っていた。後宮に入れてしまえば、ランベールが管理することができる。
始末しないで済むだけでなく、マダム・シャンリーを愛妾にできるので好都合だと、ランベールは同意した。
ランベールとの間に後継者となる子を産めば、シャンリーは王妃として実権を握ることもできる。
ランベールにうりふたつの容姿を持つ青年を、すでにシャンリーは見つけて確保している。
あとは機を見て、王をすりかえるだけでいい。
シャンリーの陰謀は、順調に進んでいるように思われた。
わざと女僧侶の小娘を逃がし、ゼルキスの騎士団に情報を流して、傭兵ガルドを始末させる。
シャンリーは、傭兵ガルドが討たれた知らせが入ってくるのを待っている。
騎士団の密偵で、トレジャーハンターのレナードは、ランベールとうりふたつの容姿を持っていた。
媚薬の香と娼婦たちを使い、自分が誰だかもわからないぐらいふぬけにして、王の身代わりとして利用する。
(本物のランベールは、ダンジョンにでも放り込んでやるわ)
肉親殺しの簒奪者ランベール。
いつ裏切るかわからない。
ランベールは、自分の保身のためであれば、どれだけ協力したとしても、いずれ裏切る人間だと軽蔑している。
奴隷商人シャンリーは、傭兵ガルドの秘密を知らない。
傭兵ガルドは、人間族とニアキス丘陵のオーク族の混血児である。
そして、ニアキス丘陵周辺の小村を広範囲で焼き討ちした結果、ニアキス丘陵に何が起きるのかを。
ダンジョンとは何か?
シャンリーは、侵入者の遺体がダンジョンに吸収され消滅することを、利用することだけを考えていた。