First Cunnilingus-6
さおりさんが、ずいっ、と身を乗り出す。あのいたずらっぽい笑顔で。
「あ、その……」
「お兄ちゃん」
さおりさんの表情が、ちょっと真顔に近づく。
「ぜったい怒らないから、正直に言って。しのに、性欲感じる?」
「……」
「ほんとに怒らないから。もう会わせない、とか言わないから」
「……は、はい……正直……」
「うん、そうだよね。『こいびと』だものね。前にお兄ちゃん、しののことは女の子としても見ている、って言ってたから、きっとそうだろうとは思ってた」
黒ラベルをくいっ、と傾けたさおりさんは、振り向いて冷蔵庫の扉に手を伸ばし、中から黒ラベルをもう二本取り出す。かしゅ、と、プルトップを開ける音が響く。
「ね、どんなことしてるの、しのと」
さおりさん完全に酔ってるのかな。
「……」
「ふふ、まあ、言いにくいよね」
「……ごめんなさい……」
「やだ、謝らなくてもいいんですよ、さっきも言ったじゃない怒らないって……」
黒ラベルを持っていた手で、俺の左手をぽんぽん、と軽く叩く。冷蔵庫から出したばかりの冷えた缶を持っていた手を、なぜか温かく感じる。
「前にも言ったかもしれないけど……しのを大切にさえしてくれれば、しのがいやがることを無理矢理にしたりしなければ。ね」
「……」
「お兄ちゃんがそういうことしていないのは、しのを見ていればわかるの。傷ついていたら、母親の私にはわかる」
飲んでる?とうながされ、一本目の黒ラベルを空ける。
「しのにね、聞いたことあるの。『お兄ちゃんと二人っきりでどんなことしてるの?』って。そしたらね、『それは、こいびとどうしのことだから、ママには秘密』なんて言うのよ。ほんと、生意気になったわ」
黒ラベルがごくごくと喉を通り過ぎる。
「いくら小学生とはいえ、ね。いちおうプライベートだから尊重してあげなきゃ。でもね」
さおりさんが真面目な顔になる。
「その分大人の私たちがちゃんと正直に話をしていきたいな、と思ってる。もちろん、しのとどうやって過ごしているか根掘り葉掘り聞いたりはしないわよ、お兄ちゃんのこと信じてるから。けど、きれいごとみたいなのはいやなの」
そう言って両手を伸ばして、手のひらで俺の左手を包む。
「ね。お願い」
「……はい、わかりました……でも」
さおりさんが小首をかしげる。
「あの、なんていうか変なこと聞くんですけど……いや、俺の立場で聞くのも変なんですけど、さおりさん、どうして俺を許してくれるてんですか?」
「ん?」
「その、俺みたいな年齢の男が、小学生のしのちゃんと恋愛関係になるなんて普通はありえないことだし……あ、あの、なんていうか、単にいたずらするだけの変質者だとかは」
「んー、まあ、たしかにね。一般的な親ならそう思う、よね」
さおりさんがため息をついた。温かな吐息が俺の手の甲にかかる。そして、ふと壁の時計を見上げる。
「やだ、こんな時間……ごめんね、もう解放してあげる。お仕事、寝坊したら大変だわ」
「あ、でもまだだいじょ……」
「いまの疑問ね、もう遅いからまた時間取ってゆっくりお話する。今日は、綾菜ちゃんのこともしののことも、ありがとう」