権利-4
『クク…クククッ!まあ世の中≠チてのは女の声の方がデカいからなあ?どんなデタラメでも女が言えば何でも世の中の連中は信じる……俺らの仲間は《その被害》に遭っちまったけどな』
「ッッッ……そ、その人は…ッッ!!??」
鈴木が風花に見せたのは、新庄由芽のDVDパッケージだった。
[痴漢を一撃!正義のヒロイン・由芽]のタイトルがデカデカと表を飾り、そこにはキッと睨んでくる由芽の顔だけがあった。
その裏には、両手を吊られて逆Y字にされた由芽が二人の男に挟み撃ちにされ、太腿や内腿を触られながらも歯を食い縛っている姿があった。
池野夏美や津川明日香だけではなく、やはり新庄由芽までもこの男共の毒牙に掛けられていた……となれば、奥村かずさも……予想的中の《大スクープ》は恐怖心をこれでもかと煽り、だからこそ奴等の罪を公にする使命を果たさねば……。
『このメスブタはな、通勤電車の中でちょっと肩がぶつかっただけで、俺らの仲間を痴漢呼ばわりしたんだ。何にもしてねえ無実な奴を痴漢にでっち上げて……酷いことってのは〈こういうコト〉なんじゃねえの?』
「し、新庄さんは間違ってないわ!捕まった痴漢にだって取材したんだからッ。冤罪なんてあり得ないわよ!」
風花は由芽が失踪した時、痴漢仲間の逆恨みという筋を疑っていた。
だが、高田(桜庭)は単独犯だと言い張っていた。
『一人でやった。AVの見過ぎで可笑しなコトをしてしまった。今は反省している』
あの真摯に見えた言動が、単なる自己保身でしかなかったと風花はいま気づいた。
『他にも仲間がいる』と喋れば、過去の罪まで穿り返される。
更に刑罰は重くなり、刑期も長くなる。
ならば単独犯≠セと言い張り、今回は〈初犯〉という事で収めた方がいい…と。
『フンッ……冤罪じゃない?その冤罪を晴らすのが《不可能に近い》から諦めたんだよお。痴漢の裁判で可笑しな判決が出たコトがあるってのは、記者をやってんなら知ってるはずだよなあ?』
「わ、私に説教するつもり?犯罪者のクセに偉そうにしてるんじゃないわよッ!」
『そういう台詞はまともな反論してからにしてくれる?都合の良い方面からしか事件を扱わないなんて、記者としてどうなんだよお?』
犯罪者の身勝手な理論に、風花の怒りは増幅していく。
あの男(高田)が初犯な訳はない。
この男共の仲間というだけで、高田は逮捕されて当然のクズだったのは言うまでもない。
「貴方達の仲間の事なんて知らないわよッ!自分達のしてる事を棚に上げてよくも……ッ……じゃあ津川さんは?森口さんは何をしたって言うのよッ!?」
新庄由芽が逆恨みからの拉致だとしたなら、無害な一市民だった津川明日香や森口涼花はどんな理由があって拉致されたのか……?
怒りのあまり冷静さを失いつつあった風花は、売り文句に買い文句で不用意にも捲し立ててしまった。
『……津川?津川ってメスは……コレだったかなあ?』
「ぅぐッッッ…!!??」
その差し出されたDVDのパッケージを見た風花は、ギョッと目を剥いて固まってしまっていた。
ショッキングピンクの丸文字で書かれた
[ケツマンコしか勝たん!まゆまゆ]のタイトルは元アイドルの田名部麻友の人権を蹂躙するものであり、パッケージの裏側には拘束台の上で伸びをする猫のような姿勢にされた田名部麻友が、溶解した糞便を高々と噴き上げている姿がプリントされていた。
『このケツだけアイドルの居場所を俺らが知れた理由ってのはなあ、風花ちゃんのお仲間さん≠ェ情報を流してくれたからよお』
『何だっけ?[盗難車を追って東南アジアへ]だっけ?大層な番組だったけど、その番宣の絡みで田名部麻友のオヤジの車が盗まれたってニュースでやったよなあ?ご丁寧に車名にグレードにボディーカラーまで教えてくれて、それで簡単に住所を特定出来たぜえ』
「ッ…………」
元アイドルの失踪事件……風花はテレビ番組で話されていた通り、熱烈なファン達が徒党を組んで暴走し、集団ストーカーと化しての犯行だと思い込んでいた。
自分達の側に責任があったとは思いもしなかった風花は再び固まり、しかし、《変態》としか呼べない凌辱に田名部麻友が曝されていたという事実に戦慄が走る……。