チャーム-11
「おまえの命を守ってやる」出てきたのはあの鳥男でした。
≪こいつまであたしを襲いに来たの≫ それでも、焼き印よりはましかもしれません。
「体は? 体は守ってくれないの。まだたりないというの」
「足りないというほどしてはいないだろう。だが我はおまえを傷つけはしない」重々しい声で宣言します。
「傷つけずに襲うだけ? 店で。もう充分に傷ついたよ」
「傷つく必要はない。あれは単なる誤解だ。あれがおまえの仕事だと思っていた」
「ひょっとして、 マネージャーをおかしくさせて、あたしに仕事としてやらそうとしてない?」
そいつは斜め上を向いたまま黙っていました。それから、「それはこの男のしわざじゃないのか」
「あんたは? 仕事じゃないとあたしにはさわれないんだ」
つっついてやります。 やっぱり動きません。
「おまえは何、誰の声で動く」あたしは警戒しました。こいつはただのコスプレ鳥男ではありません。
「許可なく触れるな。そして命は救けよと依頼された。あとはおまえと約束をかわせばすべては成立する。 『よし』と言えばいいだけだ」鳥男が体をなでてきます。
「何の約束だというの」
「気にせずとも、おまえを救け、私もたすかるためのものだ」 おなかにさわりたそうにします。
≪これは魔だ≫ 前は慌てていて気が付きませんでした。そうとわかればよけいに気を許せません。魔はできるならごまかします。
「まだだめ、おまえは誰に頼まれたかも言わない。そんなものが信用できるか」
「それでは、この後こいつに殺されるぞ」倒れた男を指します。
「それもおかしい、依頼されているくせに。あたしから何をせしめようとしている。貢ぎ物の二重取りとはまた悪賢い魔だ。そんな頭があるとは」
あたしはちょっと考えるふりをします。
「あたしの彼を病院送りにしたのも、あんたじゃないの。 知らないといったら、もう一生おまえには会わない。さあ、どう」
「おまえは狙われている」
「襲ったのはあんたじゃない」
「この男はナオの紹介したバーのボーイじゃないか。もともと狙われていたのだよ。愚かなマイよ」
「お前だって狙ってたくせに」
「だが、それは後の事だ」
「なるほど、だれに頼まれたかわかったぞ。そんな魔に依頼する者といえばあいつしかいない。それは、バンド仲間のクロだ」嘘とはったりです。ここに一番近くて頼れそうなのはクロしかいませんでした。≪彼さえ来てくれたら≫
「クロ? だけど、約束したのは女だぞ」
≪へえ、そうなんだ≫ 「それがどういうことか、クロが来れば分かる。証明してやろう」
女で、こんな取り決めをしてくれるのは、お母さんかもしれません。本当の母親の事ではありません。もちろん魔女としての母です。
「呼んで来い」
「やらない。おまえの手に乗って、無料で連れてきてなどやらない」
「これじゃあ、話が前に進まない」
「おまえが契約をしないからだよ」いらついた魔が妙な声を出します。
「その契約とはおまえが勝手に言っているだけだ。すでにあたしを助ける契約をしているんだろ」
「それは死からは救えというだけだ」
「では最後までたすけて」
「いやだ、今はもう死にそうにないだろ」今までの重い声ではなく。どんどん高くて軽い声になってきています。
「契約すればいいんだね」お母さんの知っているものなら、心配はないかもしれません。
「そうだけど、何をくれるつもり」
「そうだな。魚の頭」