未亡人との歪な関係F-8
しばらくして、佳織が水の入ったグラスを持って部屋に入ってきた。
佳織はサイドチェストにグラスを置くと、布団に潜り込む。
「お水飲んでね。喉カラカラだったから、うがいするついでに歯も磨いてきちゃった、冴子さんのせいで声たくさん出したからね」
笑いながら冴子の頬をぷにっとつつく。
四十代の肌とは思えないほど、ハリがあった。
よほど、ケアしているのだろうということがわかる。
「ーーあの、本当に……ごめんなさい」
冴子は起き上がって、佳織の体に覆い被さるようにしながらサイドチェストにあるリモコンを取って、恐る恐る電気をつけた。
「……?」
佳織が突然の明かりに眩しそうな顔をしていると、冴子は佳織に掛かっている布団をめくった。
そして佳織のトレーナーの裾を掴んで、捲りあげる。
冴子が佳織の体を見てぎゅっと目を閉じた。
「……本当に、ごめんなさい」
明かりに照らされた佳織の皮膚には、無数の痕ーーキスマークとも異なる痛々しい痕が残っていた。
「多分……太ももにもたくさんついてます……」
「首とか、見えるところには付いてないんでしょう?大丈夫じゃない?」
「そうじゃなくて……。あたし……断りもなく、本当に無茶しました。こんなの、噛み跡です。キスマークじゃない。一方的です」
「んん?どこが一方的なの?あたしも、したいようにしてって言ったし、冴子さんもあたしのこと……自惚れかもしれないけれど、そうしたかったんでしょう?あたし、嫌なんて一言も言ってないじゃない」
胸をはだけさせたまま、佳織は冴子の体を引き寄せて抱きしめる。
「気持ちよかったし、何より冴子さんがあんなに興奮してくれるんだ、って嬉しかった。きちんと二人の間にコミュニケーションがあったんだから、冴子さんのしたことは健全なことだよ」
「本当……?」
「昨日、何も気にしなくていいって言ったじゃない」
冴子の頬に指を添えて、彼女の唇に佳織は唇を押し当てる。
「意地悪しちゃお」
佳織ははだけたトレーナーをそのまま脱ぐと、冴子の肌に柔らかな肉を押し当てるようにして、その体を抱きしめた。
そのまま冴子の左耳に、何度も唇を押し当てる。それだけで彼女の体はびくびくと震えた。
「そんなたくさん噛んじゃうくらい興奮してくれたの?」
耳元で囁くその声は年齢相応に低くて、冴子の耳には心地よい。
ぞくぞくと耳の中に染み込んでいく、優しい声だった。
「冴子さんのこと大好きよ。あたしに、色々教えてくれた人だから」
頬から、首へ、首から鎖骨の辺りへと、唇が押し当てられる。
舌を這わされなくとも、その柔らかな弾力のある唇は十分にいやらしい。
「悠斗くんが、何度も抱きたくなるはずよね……こんなにいやらしい体。女のあたしが、触りたくなっちゃうもの」
思わず冴子は、自らの胸を隠した。
いやらしいなどと言われるのは慣れているはずなのに。
むしろそれを今まで肯定してきたし、恥ずべきことではないと冴子は思っている。
だが、佳織の前ではセックスが好きな女というよりむしろ、ただ甘えたがりの女でいたかった。そんな弱い冴子のことを、きっと佳織は肯定してくれるだろうから。