レナ-8
「失礼な方でした。わたくしの仕事をさげすんだり、あの子を犯人のように扱う方には出て行っていただきます」
「そうですか」
「我々はどちらもサービス業と言えるでしょう」
「警察と水商売がですか? 新しい見方ですね」
「でもあなたは紳士のようですわ」
「それはどうも。 でも、儲かるのですね」もう一度見まわします。
「いいえ、仕事もボランティア活動のようなものですわ。この家はわたくしの財団のものでございます」
「難民の支援団体でしたね」
「長年やっております」
「なるほど、だからあの子をここに置く決定がなされたのですね」感心しているようですが、会話はうわのそらです。
そんなことはとっくに調べているのでしょう。会話以外のなにかに注意を払っているようでした。
いつまでものぞき見していても仕方ありません。あたしは意を決して部屋に入りました。
「おまたせしました」
捜査官がもう一度自己紹介をした後、何か思い出さないかと、いくつも質問の石を投げてきます。
あたしは何もないと答えるだけでした。
「家に行ってみたくありませんか」急に言われました。
≪そりゃ、帰ってみたい、でも怖いし≫ どうすればいいのかわかりませんでした。
でも、投げられた石を無視することはできませんでした。 「少し」
「そうですか。では」連れて行こうとします。
「私たちも行くよ」入り口でナミが立ちふさがりました。
「ほう、信用していただけませんか」
「その家ではこの子の身代わりが見つかったのよ。なぜだかわかるまで、ひとりで行かせるなんて気持ち悪いわ」
「身代わりですか?」カラザの目が一瞬厳しくなります。
「そうですわね、わたくしたちはこの子に責任を負っていますものね」
あたしは熱くなってきました。≪ほったらかしにしないでくれる≫ ナミにすら感謝しそうでした。
車に乗って家に向かいました。捜査官は運転をしながらいろんな話をしてくれました。
目付きは怖かったのですが、思ったより優しい感じでした。
この人の話を聞いていると、少しはしゃべってもいい気がしてきます。
一緒になって喋っていると、「うれしそうね、あなたってこんなおじさんが趣味だったのね」ナミが口をはさみます。
「なに、あたしって、こんなおじさんが趣味なわけ?」 ばかみたいに繰り返してしまいます。
≪やだ、襲われて変わったのかな。それともあいつに裏切られて、同じくらいの年の子はだめになっちゃったの?≫
「嫌いじゃないけど、若い子のほうが‥」 言ってる途中で気が付きます。≪違う。しゃべりすぎるなという合図だ。あたしって何喋ってるんだろう。この人はしゃべらせるプロなんだ≫ 動悸までしてきます。
「中年ですまなかったね」捜査官が笑います。
「おじさんって、あたしくらいの子をどう思います」
「そうだね、ちょうど姪っ子が君くらいかな」
「カラザさんって、姪っ子と結婚できます?」