未亡人との歪な関係D-2
佳織の自宅で食事を取っている最中も、隼人はどこかうわの空だった。
隼人がトイレに立った時、佳織の対面のソファーに座る岳が心配そうに尋ねる。
佳織は服を着替えていて、adidasのパーカーに、黒のスキニーパンツを身につけている。
「武島さん、何かあったの?元気なさそうだけど。お酒も全然飲まないし」
「今日飲まないかって誘われたんだけど、最近早く帰ってあげられなかったでしょう?飲みに出るのは難しいから、うちに来てもらったんだけど……心配だから帰りは送ってくから、帰り、遅くなっても気にしないで?話もありそうな感じするし、どこかでお茶でもしてくる」
「俺のことなんか気にしなくて、付き合ってあげればよかったのに」
「あのね。母親なんて、息子がいちばん可愛いものよ」
「悠斗より?旅行から帰ってきてから、最近会ってないでしょ」
岳がにやにやしながら聞いてくる。
「ば、ばか……」
佳織は顔を赤くして、照れを隠すように食べ終わった皿を持ってシンクへと置く。
「母さんってさー。最近気づいたけど、本当にモテるんだろうね」
「は?母親に向かって何言ってるの?」
佳織が皿を洗いながら怪訝そうに尋ねる。
「悠斗とのこと知らなかった時は、母さんが武島さんのこと気に入ってると思ってたんだけど。武島さん、絶対母さんのこと好きでしょ」
「え……?馬鹿なこと言わないの、一回りも歳、離れてるのよ?しかも、武島くんモテるし」
「そんなにモテる武島さんが母さんとしか会社の人だと食事行かないんでしょ」
佳織が戸惑っていると、廊下とリビングを繋ぐ引き戸が開く。
そこにはトイレから帰ってきた隼人が立っていて、佳織は思わずどぎまぎしてしまった。
*
時刻は二十時頃。
隼人はそろそろお暇します、と言って立ち上がった。
佳織は宣言通り、隼人を送ると言って一緒にマンションを出た。
「家…寄って行ってくれませんか」
「うん、わかった」
十一月も半ば。
夜は一層に冷えて、佳織はパーカーの上に羽織ったコートのポケットに手を突っ込んでいた。
「寒いですか?」
隼人は右隣を歩く佳織の手をポケットから引っ張ると、冷えてしまった佳織の手を握る。
「ふふ、色男なんだから。若い子にいつもこんなことしてるのね?」
「寝る女に?しませんよ。本間さんの手、俺が握りたいだけ」
「……今日は珍しく、甘えてきてるのね?疲れてるんでしょ。岳も心配してたよ、元気ないって。彼女でも作って、癒してもらいなさい?」
「本間さんがこうしてくれたら満足ですよ。本間さんといると……本間さんが俺に気を使ってくれてるんでしょうけど、楽ですし。それに、彼女作ったら本間さんとこうやって会えなくなる」
風は冷たく、寒いのに、かぁあっと佳織の顔が熱くなった。
ーー武島さん、絶対母さんのこと好きでしょ。
(まさかね……)
佳織は岳の言葉を思い返して、余計にどきどきしてしまうのだった。