未亡人との歪な関係C-3
*
あれから祥太は、挨拶するだけではなく、佳織に何となく話しかけるようになった。
物静かで、色白で「王子」と呼ばれる祥太が微笑むと、綺麗な顔立ちがより際立つ。
話しかけると言っても、佳織の邪魔をしないように一言二言なのだが、隼人はそれを面白がっていた。
「本間さん、本当年下キラーですよね」
「はあ?」
部屋の一角に、小さな給湯室があり、そこで隼人と佳織が一緒になるタイミングがあった。
粉末のコーヒーを入れたマグカップをセットし、お湯が出るサーバーのボタンを押しながら隼人がニヤニヤ笑っている。
佳織は隼人が使っているサーバーに備え付けの煎茶を飲みながら怪訝そうな顔をした。
「豊田祥太。食べちゃいました?」
ボソッと小さな声で隼人が言う。
「そ、そんなわけないでしょー?!武島くん、そんなことばっかり考えてるのね、仕事しなさい、仕事」
「だって、豊田ってイケメンだし、何もしなくても声かけられるだろうに。本間さんに、目つけるなんて見る目あるわ」
「それはどうも。って、別にたまたま帰りが一緒になった時があっただけだから」
隼人に、祥太と飲みに行った話をしたら余計にからかわれるだろう。
そう思って「たまたま帰りが一緒になった」とだけ言った。
「見る目……ありますよ、少なくとも俺は、ずーーっとヤリたかった」
獲物を見るような、鋭い目付きで隼人に見つめられる。
隼人は近づいて、手を、濃い茶色のジャケットに包まれた腰の辺りに伸ばしてきた。
「ば、ばか。冗談にも程が…」
ドアすらない、給湯室で隼人が大胆な行動に出たことに驚く。
言い終わる前に、ぎゅ……と佳織は臀部を揉まれた。
そして、唇と唇がわずかに触れる。
「ちょっと、馬鹿!何するのっ……」
思わずマグカップを落とすのではないかと思ったそのとき。
密着した二人の姿を見てしまったものがいた。
そこに立っていたのはーー豊田祥太だった。
目を丸くして、立ちすくんでしまっていた。
「ん、もう……武島くん、からかわないで。セクハラされたって言うわよ」
「はーい、すみません」
隼人は手をひらひらとさせて、コーヒーの入ったマグカップを持って席へと戻って行った。
「ご、ごめんなさい、あの……」
もごもごと、祥太が下を向きながら小さな声で謝罪の言葉を呟く。
「いーえ、謝るのはこっち。親しき仲にも礼儀ありよね、全く。武島くんてば。あたしがおばさんだからってからかってるの」
佳織は、ふぅっとため息をついた。
祥太が佳織の体をじっとりと見つめていることなど、気づかずに……
*
(ーーあぁ、もう最悪)
クールだと思っていた隼人は、最近佳織に打ち解けてきたのか、よく笑顔を見せるようになった。
今日に至っては、白昼堂々、ドアのない給湯室でキスまでしてきた。
しかも、祥太に見られてしまったーー