裸審査-1
だが、そういうことにはならなかった。昭代は告げる。
「残念ね生徒諸君、このステージはあなたたちに審査権がないものね」
それは審査員に選ばれた生徒たちも事前に知らされていることだ。3人の裸を見ることまでは許されていても、審査を下すのは別の面々の役目となっている。要するにこれまでのことは前座でしかなかったのだ。
本選会のプログラムを一切知らない美景たち出場者は、今度は何が始まるのか、改めて気になってきた。
敗色濃厚を感じていた梨佳と奈津江にとっては、ひとつの希望と思えたかもしれない。
と、昭代がスマホを手に取り、通話を始める。
「準備が出来ました。では先生方、お願いします」
その「先生方」っていったい……?
改めて不安に駆られる美景だった。
通話を終えると、昭代は男子生徒たちに呼びかける。
「はーい生徒諸君はここまで。退出の時間よ」
彼らからは「ええーっ」「もう終わり?」などとため息が聞こえた。だがこれまでとんでもなく豪華なショーを体験させてもらっておいて、もっと居させてくれなどと贅沢を言えた手前ではない。
男子生徒たちは、みな名残惜しげな思いを隠せない。写真撮影は厳禁されていたから、和天高を代表する美少女たちのヌードをしっかり目に、そして記憶に焼きつけておこうと、あらためて3人のからだを凝視した。この中に絵師がいればその記憶をもとに彼女らの裸像を描こうと考えただろうが、そうした絵を発表することは撮影同様に禁止。これも誓約事項だった。
美景の無毛のワレメには、とりわけいま一度男子たちの注視が集まった。彼女もそれをひしひしと感じさせられ、あらためて羞恥に駆られた。
「誓約したとおり、秘密は厳守よ。いいわね」
「はーい」
「じゃあ、早く出ていく」
昭代が念を押すように言うと、男子たちはやや力なく返事した。そうして彼らは、おもむろに出口のドアに向かっていく。審査員としてこの後も残ることを許されている船戸と小林は、その特権が羨望の的となった。
当然のことながら、彼らのなかで股間が極限まで張りつめていない者は1人もいないから、まだまともに歩くのも難儀している様子だった。ドアの手前で見納めとばかり振り返って、女の子たちの裸身に最後の一瞥を加えるのも、みなに共通したことだった。
この後、思春期ただなかの少年たちは思い思いのやり方で、これまで見た光景をありありと思い浮かべつつ自らを慰める営みに耽ったことだろう。どうしても我慢できずに、校内のトイレの個室でもうそれを実行した男子もいたに違いない。
男子たちの大部分がいなくなって、美景はひとまず一息つこうとした。いまだ全裸であり、生徒会の2人はまだ残っているものの、あれだけ多くの男の視線から解放されたのはずっとましな状態といえた。
だがそうする間もほとんどなく、彼女から見て右手側のドアがガラリと開いた。そこから3人の中年男性が入室してきた。
昭代がさっき言っていた「先生方」のことだろうから、全員教師なのは間違いない。
3人は演台側に座る2人の女性教師から書類を受け取ると、反対側の机にその書類を置き、椅子に腰掛けた。
「和天高校ミスコンテスト、全裸審査の審査員を務めていただく、山川隆先生、野塚寿康先生、黒井良蔵先生のお三方です」
その3人を昭代が紹介する。全員40代から50代初めぐらいと見える男性教師。ジャージを着た黒井はその出で立ちからして体育教師だ。
美景は、これまでとは異なった羞恥に襲われた。同世代の思春期の男の子たちの目で裸を見られるのとは別種のものだ。年の離れた中年おじさんが若い娘に対して向ける、独特のいやらしさに満ちたまなざしを裸身に浴びなければならないのだ。
3人のうちに、美景がいま教わっている教師が誰もいないのはまだ幸いだった。もしいたら、今後とても授業など聞けなくなるに違いない。ただ真ん中の野塚からは昨年数学の授業を受けた。教え方はわかりやすく、生徒の質問にも丁寧に答えるいい先生だと思っていた。クラスで一番出来が良かった美景のことはまず確実に覚えているはずで、気になった。
「ど、どういうことなんですか……?」
美景より先に、梨佳が震える声で昭代に尋ねた。彼女にしてみればさっき裸身を晒すのに踏み切れたのは、まだしも相手が同年代の若い男の子たちだからこそだ。これまで学園のアイドル的存在として、彼らを魅了する活動の延長。他の誰にも見られないなら、それでミス和天高の座を勝ち取れるならと、恥ずかしさに耐えつつもまだしもできたことなのだ。
これが、別に魅惑したくもない、可愛いと言われても何も嬉しくない、中年オヤジの男性教師たちの前となればまるで話は別だった。
「あ、隠すのは禁止よ」
そう言って、手で胸と局部を隠そうとする梨佳を制してから、昭代は説明に入った。
「あなたたちの美しさは、大人の目で審査しないと見えてこないこともあるのよ」
奈津江もまた、中年男性たちに裸を見られているとあっては、ついさっきまでの自信満々な様子は影を潜め、動揺を隠せていない。その彼女にも目を向けつつ、昭代は続けた。
「あなたたち高校生はまだ若くて、自分たちの美しさと魅力をまだ自分では十分にわかってないこともあるはずよ。同年代の男の子たちもね。女子高生の若い素肌がどれだけ素晴らしいものかなんて、さっきの男の子たちは当たり前すぎて気づけてなかったでしょうからね。だから、審査には大人の目が必要なの」
一応理屈としては通っているかもしれないが、こんなふうに中年男たちの前に裸を晒すなど、出場者たちは何も聞いていない話だ。