覚醒、欲しがる未亡人 本間佳織F-3
佳織はこの頃部屋着に使っている黒の半袖のマキシワンピースに寝室で着替えると、リビングへと向かった。
時刻は十五時頃で、リビングのソファーにはいつものように隼人と岳が座り、その対面で、理央が床にあぐらをかいて座っている。
冷たいお茶を飲みながら、仲良く話をしているようだった。
「あ、母さん。お酒とか冷蔵庫入れといたよ」
「うん、ありがとう」
キッチンで手を洗いながら、佳織は答えた。
ちらり、と隼人から横目で視線を送られる。
鋭い、その目付きに思わずどきん、と胸が高鳴る。
岳に、悠斗との関係を話したあの日以来、隼人とは体を重ねていなかった。
おそらく、隼人は適当に女性を見つけて遊んでいるのだろう。
会社で二人きりになったときに、自慢されるわけでもなくあっさりと、女性とのそういう話をされることが複数回あった。
ただ、会社ではやはり浮いた噂などはなく、仕事先で女性に手を出さないというのは彼らのルールなのだろうと思っていた。
「佐藤くんの隣、失礼するね」
「あ、はい…」
佳織はお茶の入ったグラスを持って、理央の右隣に座る。
理央は佳織を意識しているようで、不自然に距離を開けた。
「何か……変な感じ…ですね、本間さんの自宅にいるって。僕、あんまり東京来ることないし……」
「そうだよね、藤沢の出張とか、東京本社の社員が静岡に行くことが多かったから。
それに、武島くんが異動になるの、全然掲示板チェックしてなくて知らなくてさ。不思議な感じだよね、最寄りが一緒どころか、今デスクも隣なんだよ?息子の岳とも、よく遊んでくれてるみたいだし、あたしの方こそお世話になってる」
「あ……そうなんスか……」
理央がそれを聞いてぐっ、と唇を噛む。
理央の目の前にいて、何やらヤキモチを妬いたような表情をしたことに気づいた隼人が、クスッと笑った。
「岳くん、理央ね、今日本間さんに会えて嬉しかったみたいなんだけど、俺が最寄り一緒って教えてなかったから不貞腐れてんの」
「え、その言い方ひどくない?!だって、言ってくれてたら本間さんに連絡取って東京で遊ぶコースの中に組み込んでたよ」
「それはないでしょ。二人が東京来てやることなんて、絶対ナンパでしょ?佐藤くんなんて、この間本社でやった研修会のとき、すごい声かけられてたじゃない」
その会話に岳が手を叩いて喜ぶ。
「いやあ、武島さんもイケメンだけど、佐藤さんもマジイケメンですもんね。二十代って言っても俺信じるもんな〜」
岳はうんうん、と頷きながら笑っている。
隼人も「バレた!」というような顔をして、舌を出した。