覚醒、欲しがる未亡人 本間佳織E-8
その時だった。
キイ、と向かいの部屋のドアが開く。
「えっ…?」
向かいの部屋の主ーー岳も同時に、悠斗と同じタイミングで声を出した。
隼人が帰る時から玄関の明かりがついたままだったので、薄暗い廊下だが、何となくお互いの表情は見える。
「悠斗…?部屋にいないと思ったけど……え……?」
悠斗は何も言えないまま、佳織の部屋のドアを閉めた。
まだ岳は寝ぼけているのか、ゆっくりと悠斗に近づいてくるが、目をこすっている。
「ここ……母さんの…部屋……。何、して……?」
岳はようやく、気づいたらしく、目を丸く見開いた。
「おばさん……いや、佳織さん、寝てるから、静かに」
悠斗は決心して「おばさん」ではなく佳織の名前を呼んだ。
そして、大きな声を岳が出すかもしれないと思って岳の口を手でそっと押さえるしぐさをする。
そうしたにもかかわらず。
「うぇえええええ??!?」
と岳は大きな声を出したのだった………
悠斗は頭を抱える。
さすがに声に気づいた佳織が起きてしまったようで、何事かと服を身につけた佳織がドアを開けた。
「岳?夜中にどうしたの?あっ……」
佳織の寝室の前に、悠斗と、岳。
その状況に、佳織もすべてを悟る。
「部屋から出てきたところ見られた、ごめん」
悠斗は、そういうと唇をぐっと噛んだ。
「ーー岳。こんな形の報告になって申し訳ないけど、悠斗くんと付き合ってるの」
「母さんにもプライバシーはあるって……悠斗とのことだったんだ。……俺の母さんのことそんな風に見てたのかよって、悠斗に思っちゃって何か……マザコンかな……」
岳は苦笑する。
嫌でも、想像してしまった。
夫を亡くした寂しい母親に、……しかもおそらく、男性に縋ることを我慢していただろう母親に、悠斗が強引に迫ったのではないかと。
「ーーーでも、悠斗なら、いいか。まだ、頭が追いつかないけど。悠斗は、母さんに変なことするような奴じゃないよな?きっと」
岳は悠斗の肩を、手のひらをグーの形にさせて軽く叩いた。
「でも!今日みたいなのはダメ。だってその……部屋から出てきたってことは、そういうことだろ。俺だって男だからわかるから……俺がいないときに、頼む。父さんなら寝室だってそもそも一緒だったし、全然かまわないけどさあ」
そう言った岳に、佳織はごめん、と心の中で謝る。
先程までの行為を誘ったのは他でもない佳織だからだ。
「男だから」悠斗が誘ったのではなく、佳織が我慢できなかったからだ。
「約束するよ。俺、岳の母さんのこと、大事にしたい」
ニカッと悠斗は笑って言った。
佳織はその言葉が心底嬉しかった。
息子の岳が思うより、ずっと歪な関係ではありつつもーー
「岳。あたしも、悠斗くんのことが大事だよ」
まるで岳に誓うように、佳織はそう述べたのだった。