壮絶・鞭に追われる牝馬たち-3
より緊迫したレースを楽しみたい―――誰かの一言でハンデが導入された。それぞれの能力によってスタートラインをずらすのだ。当然若い望菜やスポーツ万能の玲奈は後方からのスタートになる。
「次は大障害、百メートル、今日のメインレースだ」
憔悴しきった人質たちを見回しながら、元山が言った。
「リナックス杯とでも名付けようか。優勝賞品は煙草二本だ」
オーッと男たちが色めき立った。禁断症状の彼らにとって、それは砂漠を歩かされた後の一杯の水に等しい。
曲がりくねったコースが設えられ、障害物も置かれた。
「早くゲートに入らねえかッ!」
元山が怒鳴った。疲労困憊した女たちは暴力に怯えながらも、ノロノロと緩慢な動きで立ち上がる。
「いいかげんにしてくださいッ!」
抗議の声があがった。傍若無人な男たちの振る舞いにたまりかねた彩佳だ。
「こんなことをして何が楽しいんですかッ!」
端正な美貌が憤りでワナワナと震える。
「何だとッ!」
元山がドスの利いた声で怒鳴った。
「みんな疲れてるんですッ。少し休ませてあげてくださいッ」
「ほお・・・疲れてるってか?」
ジロリと女たちを見回した。誰もが元山と目を合わせまいと、懸命に顔をそむける。
「誰だ?疲れてるなんて言う甘ったれたヤツは、エエッ!!」
「・・・・・」
返事はない。
「真理子か?」
「い、いえ・・・疲れてません」
「茜か?」
「い、いえ・・・大丈夫です」
「フフ、誰も疲れてねえってよ。ええッ?この落とし前、どうしてくれるんだッ!」
彩佳は唇を噛んだ。だが部下の気持ちも分かる。誰でも暴力は怖い。
真理子も茜も心の中で詫びていた。いや、それ以外のコーディネーターも同じだった。
(ごめんなさい、チーフ・・・)
(先輩、私にもう少し勇気があったら。許して・・・)
だが今の彼女らに出来ることは、じっと耐えてチャンスを待つ以外になかった。
六頭の牝馬が尻を高々と掲げてスタートの合図を待っていた。反抗的な態度をとった彩佳は懲罰として最後方からのスタートだ。おまけにペットボトルを二本、腰に括り付けられている。競馬のハンデ戦で使う斤量―――つまり重りだ。
「負けた女は繁殖牝馬だ。種馬はもちろん俺たち三人よ」
男たちがゲラゲラと笑う。
「それとも殺処分にされて食われてえか」
「おっぱいを丸焼きにしてやろうぜ」
「マンコの活け造りもうまそうだ」
醜い顔をゆがめながら男たちが追い討ちをかける。