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夜宴
【SM 官能小説】

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夜宴-11

わたくしがふたたび夜宴の女になることは、わたくしたちにふさわしい愛の形だと思わないかしら。なぜって、愛する女を奪われる快楽と、愛した男のものでありながら獣たちに汚される快楽だけが永遠の愛の絆を求める男と女の究極の愛の形なのですから。あの女はあなたに差し出されるべき夜宴の女ではないわ。なぜならあなたとあの女のあいだには愛なんて存在しないのだから。あの女はあなたとの愛の形を得る前に夜宴の魔窟に閉じ込められ、拷問によってあなたのことを忘れ去り、愛の迷妄にさまよい、狂い死にすることになるわ。なぜって。ええ、わたくしが獣たちにそうさせたからよ。
だから言ったでしょう。あの女はもうこの世に存在しないの。夜宴はあなたに捧げられるわたくしを待っているわ。わたくしはあなたのものであるからこそ、獣たちが与えるどんな苦痛や屈辱にも耐えられるわ。あなたもまたそれを欲望している。わたくしたちはすでにそういう愛で強く結ばれているのよ。わたくしもあなたも互いに愛し合いすぎたわ。わかるでしょう。だからあなたの記憶の中の夜宴にわたくしを捧げて欲しいの。愛し合い過ぎたわたくしたちの究極の場所に。そこはあなたがわたくしに対する愛を確かめ、愛以上の至福を充たせる場所なのですから。
 
わたくしはふたたび夜宴の女になる覚悟ができているわ。あなたのために、あなたを愛しているから。あなただってもう我慢できないくらいわたくしを夜宴の女にしたがっている。そしてわたくしの純潔は永遠にあなたのものとして汚されるの。純潔は汚されれば汚されるほど美しくなるわ。わたくしはとても感じるの。あなたのわたくしに対する愛を。でもあなたは、今以上にもっともっとわたくしを愛することができるわ。さあ、きてちょうだい。そしてわたしの心と体に、あなただけの夜宴の女としての証(あか)しを今すぐ刻みつけて………。


 ―――――

Y…医師はクリニックのベランダに出ると、取り出した煙草を咥えた。まだ眠りから覚めないビル街の先には、霞んだ雲が黎明の光を無言のままに吸い込んでいる。抜け落ちた昨夜の記憶と風景だけが脳裏の奥をさまよっている。 
一週間前、彼はこのクリニックが閉鎖されることを診察に訪れた静代夫人に説明したが、彼女はそのことを理解したふうでもなく、彼の診察をいつものように受けるべく穏やかな笑みを浮かべ、一方的に話を始めた。
夫人の話を聞いていると、たとえばクリニックの看護師の女性を自分に嫉妬する狐女としてなじり、あるいは鏡に映った自分の姿をあたかも自分とは違った別の女ととらえていた。また異性関係について明らかに誰とはわからない男性を妄想し、その男をいつのまにか現実の自分のなかに性的に内包し、さらにその男の像をY…医師自身に重ねるという倒錯的な妄想を確かな事実として意識としていた。
 静代夫人は五年前に夫を亡くしている。ただ、その言動から夫と健全な夫婦の生活が行われたのか定かでない。彼女は死んだ夫の浮気をなじり、非難し、嫉妬していた。いや、妬情こそが彼女の存在を示す自意識そのものだった。だから彼女は、診察にあたるY…医師でさえ自分の恋人の男だと意識し、いつのまにか彼にまとわりつく女の幻影に嫉妬した。

 若年性の認知症という言葉があるが、彼女はその性格的なものからして早くから認知症を患っていたことも考えられた。それはおそらく夫との性的な断絶、貞操に対する異常なほどの固執からきており、おそらく健全な性生活から取り残され、偏執的にゆがんだ性の感覚が彼女の中に巣食ったようにも思える。そして思い込みによる激しい嫉妬という女性にとっては陥りやすい意識の乱れはさらに老齢になって進み、せん妄の興奮的な症状が斑に見え隠れしていた。
何よりも封じられた夫人のゆがんだ性は、彼女に夜宴という妄想の風景と時間、そして記憶の暗示を生んだ。もちろん現実としてその夜宴が存在するわけではない。ただ夜宴という言葉が彼女の性を充たす記憶の場所として彼女の妄想の中にだけあるとしたら、それはきわめて彼女の特異なマゾ性に起因するところだが、ある面、それは彼の憶測違いであるということが脳裏を横切っていくこともあった。なぜなら彼女特有のマゾ性の中に孕んでいる、ある種の残酷な加虐性が彼女に見え隠れしていたからだった。
 


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