「向こう側」第二話-4
「これです」
スグルはその石をヴェラマージに手渡した。
ヴェラマージはそれをじっと見続けた。
「ふむふむ、参考させてもらった。これは君が持っておくべきじゃ」
もとの世界へ戻る手掛かりとなることを何か言われるかもしれないと期待していたスグルは少しがっかりしながら石を受け取った。
「さて、これからのことを詳しく議論したいとこじゃが…もうそろそろ食事の時間のようじゃ。まずは腹を満たすとするかの。ちょうどシュバインの席が空いておるからスグルも食べてかまわんぞ。シュバインが帰ってくるのは次の日になりそうじゃからな」
ヴェラマージはそう言うと立ち上がって扉の向こうに消えていった。
「ほら、何ボーっとしてんだ。飯食いたくないのか?」
バッジがスグルに話しかけてきた。みんなはもうすでに食卓へと足を進めていた。
「いや俺も一緒に食べていいのかなぁって思って…」
「何言ってんだよ。じぃが言ってたとおりおまえの分もあるんだしさ。ほんとはシュバインさんの分だけど…それにもうおまえは俺達の仲間だからな」
スグルが食卓に行くとそこには円形のテーブルに多種多様な料理が並べられていた。
スグルはウィルとバッジの間の席が空いていたのでそこに座った。
ヴェラマージの隣にスグルが初めて見る女性が座っていた。
この人が食事を作ってくれたのだろう。
「さて、みんな席に着いたところでいただくとするかの」
ヴェラマージがそう言うとバッジが手を挙げた。
「何だね?バッジ君」
「スグルはまだみんなのこと知らないから簡単にスグルに自己紹介したほうがいいんじゃないかなって思うんだけど」
「うむ、それもそうじゃな。ではバッジから時計回りに自分の名前と何か一言言ってくれたまえ」
そう言われてバッジは立ち上がってスグルのほうを向いた。外にいたときは薄暗かったためにスグルはこのときおそらく初めてバッジの顔をしっかりと認識した。
バッジは一言で言うなら都心にいる若者のような雰囲気を持っていた。髪の毛は黄色に近い茶髪で襟足が長く、背も高かいためそのように感じるのだろう。
「もう名前は知ってるかもしんねーけどバッジっていう名前だ。よろしくな。何かわからないことがあったら何でも聞いてくれ」
バッジが手をさしのべてきたのでスグルはそれに応じて握手した。
バッジが席に着くと今度は食事を作ってくれたであろう女性が立ち上がった。
年は三十前後といったとこだろう。肩にかかるぐらいの長さの黒い髪が落ちついた雰囲気を醸し出している。
「どうも初めまして。話は聞きましたわ。『下の世界』から来たんですってね。私の名前はマリー、ここではみんなの母親がわりになって家事とかさせてもらってるわ。よろしくね」
マリーが深々と頭を下げたのでスグルは気まずかったがこちらも頭を下げた。次はヴェラマージの番であったがさすがに席は立たないようだ。