覚醒、欲しがる未亡人 本間佳織A-2
*
時刻は十八時頃。
「本間さん」
オフィスの入っているフロアから、一階へと降りるためにエレベーターを待っていると、後ろから佳織は声をかけられる。
振り向くと、隼人が立っていた。
「今、お帰りですか」
「うん。武島くんも?今日お昼、女の子たちに色々声掛けられてたから飲みにでも行くのかと思ってた」
「いやぁ……さすがに会社の女の子はまずいです。気をつけてます。誘われちゃったら、自制利かないんで、俺」
平然としつつ、含みを込めたような言い方だった。関係を結んだからこそ出てくる言葉なのだろう。
ーー僕ら、確かに遊んでるよ。でも会社の人に手出すことなんて、今まで一度もなかった。
思わず、理央が言ったあの言葉を思い出す。
理央が言ったそれは、嘘でなかったらしい。
「ふふ、じゃあ東京なんか来ちゃったら、たくさん遊べるじゃない」
「言えてますね」
あの言葉が嘘でないとなると、佳織に対する性的な感情は、彼らの中でかなり突出したものだったことになる。
そんな風に若い男から見られていたのかと思うと、子宮がきゅうっと疼くような感覚があった。
「飲みに行くにしても、誰かとってなると引越しでさすがに疲れてますしね。どこか美味しいご飯屋さんとか、飲み屋さん、場所教えて頂けませんか?少し一人でゆっくりしたいなと思って」
エレベーターが到着して、隼人は話しながら、二人で乗り込む。
「ーーあ、それなら……良かったら、うち寄っていく?息子、今日はいるはずだし。男性が来ると喜ぶと思う。お酒も飲める子なの。それで良ければ、息子に連絡してみるけど……でも、一人でゆっくりしたいなら、うちの家だと落ち着けないかな」
「え……本間さんのご飯、食べられるんですか。食べたい!」
「そんな大したものじゃないよ?じゃあ、 息子が良ければ歓迎会しましょう」
クスクスっと笑いながら、佳織は茶色のビジネスバッグから、スマートフォンを取り出す。
エレベーターが一階につくと同時に、佳織はスマートフォンを耳に当てた。
「あ、もしもし、岳?仕事終わった?……」
*
岳の方が、佳織たちよりも早く家に着いており、大方の食事の準備をしてくれていた。
岳は、佳織と隼人を迎え入れると嬉しそうにしていた。
「母さん、お風呂入ってきたら?疲れてるでしょ」
「えっ?そんな、武島くんいるのに悪いでしょ」
「俺だって話してみたいもん」
「ふふ、そう…じゃあお言葉に甘えて。軽くシャワー浴びてくるね。岳、食事もありがとう」
いつもとは違って、母親の顔をして岳に笑いかける佳織に、思わず隼人の胸が高鳴る。
自分に優しく笑いかけられたような気がしたからだった。
佳織がシャワーを浴び終えて、黒のTシャツにグレーのレギンス姿でリビングへ入ると、二人はビールを飲んで、楽しそうに会話をしていた
佳織は、亡くなった夫をとても大事に思っていたから、家に男性を連れてきたことは当然なかった。
(ーー仕事の関係とかじゃない、年上の男性が来るのは岳は楽しいのね…)
「母さん、メイク落としてないじゃん!変な感じ〜」
「えっ、あっ…?!だって、何で後輩にすっぴん見せなきゃいけないの」
「本当にただの後輩なの?」
岳は、佳織と隼人がそういう関係を結んだと思ってないだろうが、ニヤニヤと笑いながら、からかってそういうのだった。
「やめなさい、こんなおばさんと、若い後輩が何か特別な関係なわけないでしょう」
「岳くん、本間さんはめちゃめちゃモテるんだよ」
「えっ、マジ」