M作戦-1
それからも月2回は綾子の屋敷で会ったが完全に無視されている。
綾子もいるし神木さんもいるから当然なのだがなんかこ憎たらしい。
「麻子さん、最近また一段とお美しくなられましたね。」と話しかけてみる。
「もう。お世辞はいいの。それに君に褒められてもあまり嬉しくはないわ。」
「へぇ〜っ和樹もお世辞が言えるようになったんだ。しかも美人の麻子に。
最初うちに来た時とは大違いね。私の顔もまともに見れなかった子だったのにね。」
「おっお世辞じゃないですよ。ねぇ神木さんもそう思うでしょ?」と助けを求める。
「ああ、まあな。」麻子の腰に手を回しベッドルームへ消えていく。
麻子たちが帰った後の歓喜の時間を過ごしながら麻子ともこんな時間を共有したいと強く思った。
今のままじゃ駄目だ。あの日は千載一遇のチャンスだったに過ぎない。
何とかセキュリティに守られたあの麻子のマンションに入る術はないのか考えてみた。
こういう時ほど和樹の頭脳は冴えわたる。
マンションの道を隔てた向かい側の古い公団住宅の5階踊り場からマンションのベランダを撮る。
そして次は郵便配達人と一緒にマンションに入り集合ポストの写メだ。
自宅に戻ってベランダの写真から半円形のフラワースタンドを探す。
これは和樹が綾子と麻子にプレゼントしたものだ。
この部屋が303号室三浦麻子の部屋だ。
奥から3軒目だから部屋の並びが分かる。
ベランダにたくさんの鉢植えを並べた408号室と205号室宛にパンフを送る。
勿論見ずに廃棄されない様に宛名は手書きだ。
「ベランダ鉢植えの害虫駆除たまわります。1か月間完全監視で再発防止いたします。
農薬は使用しません。 山本園芸 湯川和樹 080−123−4567」
さっそく電話を受けた。408号室の高橋さんだ。
翌日訪問した。マンション入り口で408と入力し「山本園芸の湯川です。」と伝える。
ガチャとロックが外れる音がしてドアーを開く。
408号室を訪ねる。60歳位の上品な奥さんが迎えてくれる。
「あぶら虫ですね。他にはいないようなので重曹でやってみましょう。
殺虫剤ほどの効果はありませんが環境にやさしいですからね。
えっ、代金ですか?重曹噴霧を2〜3回繰り返して駆除出来たら5千円いただきます。」
「そんなにお安いのでしたらガーデニング仲間何人か紹介させて頂きますよ。」
顧客確保が目的ではないので丁重に断る。
「ありがとうございます。今の所仕事は手一杯でこれ以上増やせないのです。」
和樹のエレベータは3階に止まる。
セキュリティの強いマンションでも入ってしまえば自由だ。
出る時も中からは簡単に開く。
303号室の前に立ちボタンを押す。
直接やってくるのはマンションの住人か管理人しかいない。
宅配便の配達でも1階のインターホンを押すはずだから。
麻子は安心してドアーを開ける。
素早く入り込んできた男に驚き、たじろぐ。
「あーびっくりした。和樹じゃないの。どうしたのよ。」
「分かっているくせに。」
「分からないわよ。それにどうしてここまで入ってこれたのよ?」
「4階の高橋さんからの植木のお仕事を終えて帰ろうと思ったのですが
このマンションに麻子さんが住んでいる事を思い出したのです。
そしたらあの日の出来事が頭の中で鮮明になり思わず3Fのボタンを押してしまいました。」
「フフフ残念ね。私たち明日の記者会見で婚約を発表するの。私花嫁になるのよ。」
「結婚するからあの事は忘れろと言うんですか?」
「そうよ。白無垢を着て嫁ぐの。貞節な妻になるつもりよ。」
「うーん。イメージ湧かないな。あの物凄い絶頂の事知っているからね。」
「嘘よ。私はそんなに淫乱じゃないわ。なんか勘違いしているのよ。勘違いよ。」
「気持ちいい〜私気が狂いそう。何だか変なのよ〜って逝っちゃったのは誰だっけ。」
その言葉であの日の快感が脳裏に浮かぶ。ジワリと濡れる。
「何の話をしているの?それじゃまるで私を抱いた事がある様な口ぶりじゃないの。」
「あくまでもとぼける積りなんだな。結婚するからって過去は変えられないんだよ。」
ここで切り札を出す。スマホであの時の盗撮映像を流したのだ。」
「えっえっえっ〜撮ったの?何て事をするのよ。そんな子だとは思わなかったわ。」
しかし強気な麻子はひるまない。
「そんなもの撮ってどうする積り?」
「さぁどうしようかな。とにかく室内に入れてよ。」
今でも和樹のことを女性に弱い内気な男の子だと思っている。
「駄目よ。すぐにここから出て行って。管理人を呼ぶわよ。」
「そんな事言うのならこの映像、神木さんに見せるよ。」
「やれるものならやりなさいよ。そこまで非情になれるかしら。
それにそんなことしたら高島邸の仕事も失う事になるわよ。」
一度でも弱みを見せたらお終いだとわかっているので強気に突っ張る。
「この映像消去してあげてもいいんだけどな。ちょっと相談しようよ。」
聞く耳持たず追い出されドアのロックの音が聞こえる。