山口不動産-6
そして華英は本日山口不動産に出向いた1番の目的を口にする。
「ところで、千城県で現在最大手の不動産企業と言えば御社と西進不動産です。しかしその昔、山口不動産が勢いを強めた頃、後藤不動産と言う老舗の不動産会社がありました。御社との繋がりは何かあったのでしょうか。」
佳子は少し驚いたような顔をした。
「後藤不動産をご存知なんですか?」
「はい。今意外そうな顔をしましたけど、何故ですか?」
「いや、もう後藤不動産がなくなってから暫く経ちますので、知ってる人はあまりいないかと思ってました。私も殆ど忘れてたぐらいですから。」
「10年前ぐらいに西進不動産に押される形で会社が倒産したと聞いてます。当時の社長が首を吊って亡くなったと。」
「後藤晴秀さんですね。」
「ご存知なんですか?」
「ええ。先代とは親しい間柄でしたから。」
「え?親しかったんですか!?」
「はい。」
意外だった。華英らの読みでは山口不動産、西進不動産、後藤不動産の三社は相当なライバル関係にあると予測していたからだ。それが山口不動産と後藤不動産の仲が良好だったとなるとまた話が変わってくる。華英にとっては興味深い話ではあった。
「私達の調べでは西進不動産のある営業マンが汚い手を使って後藤不動産の持つ物件を奪って行った結果、倒産に追い込まれたと聞いてます。」
佳子は神妙な顔つきになった。
「今から私が言うのはあくまで見解です。後藤晴秀さんには2人の息子さんがいます。双子の。もし父親の会社が汚い手を使われて西進不動産に潰されて、そして父親が首を吊って死んだとなると、当然西進不動産に対して恨みを抱くものです。しかし噂では父親が自殺した後、西進不動産の人間と仲良さそうに歩いている姿を目撃したと先代が言ってました。先代は西進不動産が憎くてたまらない、しかし晴秀さんの息子達は西進不動産と仲良くしている。本来先代よりも大きな憎しみを持っておかしくない当の息子達が、むしろ父親の死を喜んでいるようだ、と先代は言ってました。後藤不動産の倒産には何かウラがある、先代はそう思っているようです。しかしそれを調べても晴秀さんが帰って来る訳でもない。自分は探偵でも刑事でもないし真実を突き止めるだけの能力もない。いつか西進不動産の悪事を暴いてくれる誰かが現れるはずだ。自分はそれを願い、晴秀さんの墓に手を合わせ続ける、と。最近はもう後藤不動産の事を口にする事もなくなりましたが、想いは変わってないはずです。刑事さん、先代にお逢いになってみてはいかがでしょうか。先代の願いを叶えてくれる人がようやく現れたと私は思ってます。」
華英は迷わずこたえる。
「是非、お逢いしたいです。」
と。
華英には捜査が一歩前に進む予感しかしなかった。