山口不動産-2
山口不動産に到着した。店の前には工事車両が何台か停まっていた。数日前、派手な銃撃戦があったばかり。大幅な修復工事が行われていた。しかしビルの隣の駐車場にプレハブ小屋が設置されており、華英が車を降りて近寄ると、山口不動産臨時お客様相談室と書いてあった。中へ入ると、あの銃撃戦があった日に受付をしていた倉科友美が中で業務を行なっていた。
「おはようございます。いらっしゃいま…、あ…、刑事さん…?」
華英を覚えていたようだ。
「おはようございます。先日はホント、大変でしたね。」
友美は思い出したくないと言った、疲れ切った表情でハイと答えた。
「業務、されてるんですか?」
「ハイ。事務所はあんな状態ですが、お客様にご迷惑をおかけする訳には行かないので。社長がいてもそう言うと思います。」
社長、山口元治は小渕愛子と未だ逃走中で行方不明だ。
「そうですか。風当たりも強いでしょう。」
報道では容疑者の一人として扱われている。
「ええ。電話やメールでの誹謗中傷が止みません。でもそれは報道で私達を知り、冷やかし半分でしてくる人が殆どです。普段から接しているお客様様からは心配していただき、励ましてくれます。ありがたい事です。だから完全に休業する訳にはいかないんです。大事なお客様の為に。」
友美は真剣な表情でそう答えた。
「私が感じた印象とはだいぶ違うんですね。私、山口さんは遊び人で仕事も適当で女遊びばかりしてる人で、そんな人が取り仕切ってる会社だから適当に商売やってる会社だと思ってましたが、どうやらそうじゃないみたいですね。ごめんなさい。」
頭を下げる華英。友美は嫌な顔一つせずに笑った。
「社長はあんなだから誤解されやすいし、そう思われても仕方ありませんから。確かに女遊びは大好きで、事実うちにいる子の殆どは社長と関係を持ってます。でも、みんなを大事にしてくれるんです。些細な相談でも親身になって話を聞いてくれますし、悲しい顔をしてると励ましてくれたり、ご飯に連れて行ってくれたり。お客様に困った事があると、真剣に対応してくれますし、遊びに行くと行って会社を出て行きますが、実は顧客のお宅や物件周りをしていたり、そんな人なんです、社長は。だから例え社長が容疑者として報道されても、私達のお客様は社長の事を心配してくれるんです。適当な人にそんな心配をしてくれる人はいません。だから私達もいつ社長が戻って来てもいいようにこの山口不動産を守ろうと頑張れるんです。」
「なるほど。」
華英は穏やかな笑みを浮かべて頷くのであった。