山口不動産-10
「晴秀さんの家にも良く伺いました。家族ぐるみのお付き合いでした。」
「家族ぐるみ、ですか?」
「ええ。」
「では元治さんも後藤家に。」
「ええ。」
「では晴秀さんの息子、健司と輝樹と元治さんは面識が?」
「ええ。良く一瞬に遊んでました。」
「そうですか…(健司らと元治さんが繋がった…!)」
これは大きな進展だ。やはり3つの不動産を調べる事が事件への解決への近道だと確信した。
「でもお互い就職してからでしょうか。元治はうちに、健司らは後藤不動産に。どうやら喧嘩でもしたか、急に会わなくなったんですよ。」
華英は晴秀が何かをオブラートに包んでいるかのように思えた。華英は自分が考えていた事を口にした。
「それは、健司と輝樹が後藤不動産を乗っ取ろうとしてたからじゃないですか?」
その言葉に誠の顔が引き締まる。
「刑事さん、あなたは鋭いですね。私が何年もかけて導いた結果をすぐに出してしまった。」
「誠さんもそう考えておられたんですね?」
「はい。刑事さん、あなたの推測を聞きたくなりました。」
誠は自分が考えている事を、もし華英も考えていたなら、自分が死んでも無念は華英が絶対にはらしてくれるだろうと胸を踊らせた。
「分かりました。私の推測は、その頃この街に進出してきた西進不動産がかなり強引なやり方で土地を買い漁っていたと聞いてます。健司と輝樹は後藤不動産で働いている傍ら、西進不動産に丸め込まれ、いわば手下になったんじゃないでしょうか?何らかの手を使い後藤不動産を倒産させ、後藤不動産の物件を全て手にする為に、西進不動産は健司と輝樹を使い後藤不動産を倒産させ、晴秀さんを自殺に追い込んだ…。いえ、自殺かどうかも疑わしいですね。とにかく結果的に西進不動産は後藤不動産の全てを手中に収めた。」
誠は清々しい顔で華英に言った。
「私と全く同じ考えです。」
華英は一礼した。
「晴秀さんと元治さんの仲は?」
「非常に良かったです。健司らと関係を絶った後も連絡を取り合い、街のクリーン作戦にも一緒に参加してましたからね。」
「ではきっと元治さんも健司らの悪事には気づいてますね。」
「おそらく。」
「健司らと西進不動産を憎む理由は、ある、と。」
「ええ。憎んでいると思います。」
華英の中で拗れた糸の一つが、ようやく解けたような気持ちになる。
「誠さん、今日はありがとうございました。大変貴重なお話を聞けて感謝します。」
頭を下げる華英。
「いやいや、こちらこそあなたに会えて良かった。私は死ぬのは怖くない。しかし晴秀さんの無念だけは死んでも悔やみきれなかった。でもあなたが私の無念を晴らしてくれると確信しました。もういつ死んでも悔いはない、そんな気持ちになりました。本当にありがとう。」
華英はニコッと笑う。
「ダメですよ、死んじゃ。奥様と別れて私と結婚して、たんまり遺産相続してからじゃなきゃダメですからね?♪」
「ハハハ!諦めてくれ♪」
「…私を振った事、絶対後悔しますからね♪」
華英はそう言ってウィンクして病院を去った。
「彼女が無念をはらしてくれるからな?まぁその頃にはあなたの横で彼女の活躍を一緒に見させてもらいますよ、晴秀さん。」
誠の目は空を通り越して、晴秀のいる場所を見つめていた。