社内秘 飯塚冴子C-5
「まあ、座って」
「う、うん…」
冴子と、知親はそこに座る。
さすがに冴子の心拍数が上がる。
「ーー冴子。この間の返事をもう一度聞かせて欲しい」
「返事って……この間答えたじゃない。仕事中に…何でそんなこと」
「冴子」
ギシッ、と長椅子が鳴る。
知親が冴子の方に手を置いて、体重をかけたからだ。
今にもキスしてしまいそうな距離に、知親の顔がある。
「何でダメなんだよ」
「朝から何考えてるの。やめて頂戴、よくない。タカギ」
知親はひどく切なそうな顔をした。
「ーータカギは好きって言ってくれたのに……「セフレになりたい」なんて言わせてしまったの、とても嫌だったの」
悠斗に自身の部屋で抱かれた日、体を震わせていたのはーー
冴子の罪悪感からだった。
「どう言えばよかったんだ。昨日だってここで………お前、してたじゃないか。誰とでも寝られるんだろ。なら、いいじゃないか、俺とだって」
冴子は目を見開いた。
(ああ……この長椅子の裏……小さな部屋になってて……タカギはよく仮眠取ってたんだ……忘れてた)
冴子が縋っているコンクリートの壁の裏には、小さなスペースがあり、知親のデスクで鍵を管理していた。
以前から彼が私物化していたのだった。
当然、知親は部屋の中にいるのだから、人の動きでセンサーも感知されない。
冴子たちが入ったことで明かりがつくのは当然だった。
「俺、付き合いたいって、言えばよかったの?」
「もし…もしそう言ったなら、喜んだでしょうね。あたし、本当に、タカギがいてくれて、現場から飛ばされて……タカギがいたから頑張れたの。
友達だと思ってた人が何年もあたしのこと好いてくれて、しょうもないネックレスもずっとつけてくれて……なのに「セフレになりたい」なんて言わせたことすごくショックだった。だけどね……」
冴子はスカーフに付けられたシュシュを外し、さらにはジャケットのボタンを外し出す。
知親は何が始まるのだろうと目を見開いた。
「タカギには、あたしと付き合うことも、あたしと割り切ってセフレになることも、無理だと思う」
首から外されるスカーフ。
ジャケットを脱ぐと現れる二の腕。
首や、二の腕にある真っ青になった痣。
「わざわざここに連れてくるなんて、何の意地悪なの?
よくここで仮眠とってるの、すっかり忘れてた。あたしが社員のこと無理やり誘って、してたの聞いてどんな気持ちだったの
?タカギが純粋にあたしとヤリたいと思ってくれてるなら、いくらでもセフレになってあげる。でも違うでしょう」
「冴子……」
「社員とやるだけじゃ足りずに、男を二人もホテルに呼んで、身体中こんなになるまでセックスする女なの。こんなになるまで叩かれて、首締められて、狂っちゃいそうになるくらい攻められて悦ぶ女なの」