降って湧いたチャンス-1
好機は突然訪れた。8月の蒸し暑い土曜日の午前中。朝からクリニックは大忙しであった。普段からそうであるが特に土曜日は父も二人の従業員も診療時間内は1階のクリニックを一歩も出たことがない。いつものようにスマホを仕掛けた恭介は美奈子が階下に下りていくのを自室で聞き耳を立てながら待っていた。
「ドスンッ ガチャッ」。いきなりドアの外の廊下で大きな音がした。びっくりしてドアを開けた亮介は廊下にうつ伏せた美奈子とあたりに飛散した洗濯物を見て即座にその場の状況を悟った。ベランダから取り込んだ山盛りの洗濯物を入れた籠を両手で持って速足で亮介の部屋の前を通り過ぎようとした時、こぼれた洗濯物が足に絡まり廊下で転倒したのだろう。両手が塞がっていたので顔から突っ込んだようだ。転んだ際に手首を痛めたのか両手を突っ張って起き上がれずうつ向きで痛みに呻いていた。いつもは落ち着いている美奈子には考えられない事態だった。
一瞬躊躇したが無視できないので、両肘をついて蹲っている美奈子の背後に回り、起き上がらせようとして両手を美奈子の脇から差し入れた。
「いやーっ」、背後からいきなり胸を両手で掴まれた美奈子は大声を上げ身をよじって逃れようとした。まさか胸を掴まれるとは想像もしていなかった美奈子は動転した。亮介もまた、手のひらに溢れる予期せぬ柔らかい感触に全身の毛が逆立った。