社内秘 飯塚冴子A-1
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「すみません、何か付き合ってもらうかたちになっちゃって……」
「いーえ。あたしもやること残ってたし」
知親の家に泊まった翌日。
今日は金曜日で、冴子は元々溜まった仕事を片付ける気でいたのだが、その日はたまたま悠斗も仕事が残っていた。
会社を出たのは十九時半頃。
久しぶりに食事でも、と悠斗に誘われたのだった。
「今日疲れちゃったな……。帰るの面倒くさくなっちゃいそうだから良かったら、うち、来る?ご飯、適当に買っちゃう感じになっちゃうけど」
「え…。俺はいいですけど、飯塚さん、俺なんか部屋入れて大丈夫ですか……」
「門井くんならいいかな」
電車に乗り、会社がある駅からほんの数駅の、冴子の家の最寄り駅まで行った。悠斗の家の最寄りはこの駅から約二十分ほど。
悠斗は以前、佳織と冴子と三人で会うためにここまで来たことがあるが、家に入るのは当然初めてだった。
適当に酒などを買い込み、冴子の家に向かう。
ワンルームタイプのアパートの二階に住んでいるらしい。
「狭いけど、ごめんね」
ふわり、と女性的な匂いが香る。
玄関を入ってすぐ、部屋になっており、シングルサイズのベッドが左側に縦に置かれ、その手前には白い丸テーブルと折りたたみの椅子が置かれている。床でなく、椅子に座って食事をしたりくつろいだりしているのだろう。
入ってすぐ右手には、手前からバスルーム、洗濯機、クローゼットという配置になっていた。
「スリッパとかなくてごめんね。ジャケット、かける?」
「あ。すみません…」
冴子は悠斗のジャケットを受け取ると、ベッド側にある備え付けのウォールハンガーにジャケットを丁寧にかけてくれた。
「椅子、ひとつしかないから、ベッドに座ってもいいし、椅子でも」
「はい…」
さすがにベッドに座るのは申し訳ないと思い、リュックを床に置いて、椅子に腰掛ける。
こじんまりとした部屋だった。
冴子は玄関入ってすぐ左にある簡易的なキッチンの前に立っており、グラスなどを取り出していた。
「ごめんね、外で食べたかったよね」
「いえ。俺も、気使えなくてすみません。疲れてましたよね」
「ううん、疲れてるけど、ちょっと飲みたい気分ではあった」
グラスを置いて、先程買ったチューハイなどをテーブルの上に置く。
「うん、今日はレモンサワーの気分」
悠斗は壁側に椅子を寄せて、冴子はベッドに座る。
二人ともレモンサワーをグラスに注ぐと、軽くグラスを当てて、乾杯する。
冴子は昨日と同じ服だった。
悠斗は、冴子が知親と二人で会社を出たことを知っていた。
入社して三年経つのだから当然二人の仲も知っている。特段、気に止めてはいなかった。
ーーだが、冴子が髪をかきあげると、当然ながらいつもと違うシャンプーの香りがする。
何となく、嫉妬する気持ちが悠斗の中に芽生えた。
「高木さんは、来たことあるんですか」