社内秘 飯塚冴子②-2
「ん～？ないよ。タカギ、いつも車だから。送ってくれることはあっても、この辺駐車場ないしね。
ここは、住んでちょうど十年かなぁ。元々店舗にいたんだけど、本社勤務になってから引っ越したの。結構急に決まったから、適当に決めちゃったけど、会社まで近いし。ずーっとここ」
知親が来たことがないのに、悠斗は入れたーー
悠斗は嬉しかった。
「ああ、そうですよね。飯塚さん、元々販売職だったんですよね。すごく綺麗だから、やっぱり本社勤務っぽくない」
惣菜をつまみながら、うんうん、と悠斗は肯く。
「あら、何。珍しくお世辞言うじゃない」
「あ、いやーー俺、ちょっと舞い上がってるんです、部屋…入れてもらったから」
「かぁいい。門井くんは特別だもん。でも、そんなこと言ってると佳織さんに怒られちゃうぞ？」
ーーやはり冴子にとって悠斗は可愛い。
先日の将宗のように、何か噂を知っていれば、興味本位で何故生産管理部にいるのかを聞いてくる人もいる。
だが、悠斗は容姿を褒めた上で「本社勤務っぽくない」と嫌味な言い方をして来ない。
いくら悠斗が人とあまり関わらないとはいえ、冴子の噂くらい、三年もいれば聞いたことはあるはずだ。
以前男性とホテルに入るところを見られた時も、誰にも言わなかったというのは本当だろう。
思わず冴子は、悠斗の頭を撫でた。
「か、佳織さんは好きだけど……でもやっぱり、飯塚さんいなかったら、佳織さんとはああなってなかったし。俺も、飯塚さんは特別です」
「ふふ、やっぱり可愛いなぁ。ありがと」
「ーーふぅ。酔ってきちゃったな…。自分ちで飲むと、酔うね」
時刻は十一時半頃だった。悠斗はまだ終電に間に合う。
「俺、そろそろ帰りますね。遅くまでありがとうございます」
「家に誘ったのは……帰らないでって意味だよ」
クスッと冴子が笑って、髪をかきあげる。
冴子がそんな物言いをするのは珍しい。
いつもなら、ギリギリのところで悠斗との距離感がある。
悠斗も年下なりに、そこはわきまえていたつもりだった。
わきまえることができたのは、二人の関係が始まった頃から、佳織の存在があるからだし、だからこそ、冴子は悠斗と寝ていたのだ。
「わかりました。今日は疲れてるんですね」
悠斗も冴子の態度に応えるように、頭をぽんぽんと撫でる。
「では泊まります」
「ん。ワガママ聞いてくれてありがとう。泊まるなら、もう少し飲もう？あたし、酔いすぎる前にシャワー浴びてくる」
冴子はベッドから立ち上がると、おもむろにスカートのホックを外して脱いで、スカートをクローゼットの中に仕舞う。
そしてバスルームの前にある洗濯機の前で全て服を脱ぎ切ると、ユニットバスの中へと入った。
冴子のいつものルーティーンなのだろうが、久しぶりに見る彼女の裸体に否応なしに悠斗はドキドキしてしまう。
悠斗はどぎまぎしながらグラスに注いだ酒を飲んだ。
しばらくして、ショーツだけを身につけた冴子が髪を拭きながら現れる。
悠斗の後ろで、ベッドの上に置いてあったTシャツとグレーのスエットに着替えているようだ。