腐食していく二人-6
この香水の香りを嗅いでいると、まるで斗真に抱き締められているような感覚に包まれる。
いつまでも一緒に居たい。
離れたくない。
甘えとも自惚れともとれる感情は、どうしようもなく明日香の心を昂らせた。
斗真は何時も「綺麗だ」と言ってくれた。
明日香も何時でも「綺麗だ」と言われたくて、自分自身に磨きをかけていた。
メイク選びに食事制限。
適度な運動に就寝前のストレッチ。
そして魅力的なボディーラインをより引き立たせてくれる衣服に下着……全て斗真の《お気に入りの自分》でいる為に……。
「私はアナタ達の…ッ…アナタ達のモノじゃないぃッ!!も、もう離れてッ!離れてよ早くぅッ!!!」
自分でも認めるこの美しい身体は、こんな色欲しか頭にない汚らしいケダモノが触れていいものではない。
香水の香りもこの大胆な下着も、斗真と明日香が互いを想って《選びあった物》だ。
愛し合う二人の間には、何人足りとも割って入るなど許されない。
ましてや強姦など、断じて許されるはずがない……。
『じゃあ《明日香》は誰のモノなんだ?俺らは勝手に斗真くんが彼氏だと思ってるが、別の男かどうかも分からねえ』
『思いっきり名前を叫んでみたらどうだ?すぐそこまで助けに来てるかもしんねえ。明日香の悲鳴を聞きつけりゃあ、すっ飛んでくると思うぜ?』
「い"ッッ…!」
呼び捨てにされた事と、彼氏の名前を口にしてみろとの台詞に、明日香は男共の闇の深さを感じた。
心の底から斗真に助けを求めている。
思わず口に出してしまいそうになるのを、明日香は必死に堪えている。
斗真までも巻き込む訳にはいかない……。
彼氏と彼女の深くて強い繋がりを、この男共は狙って≠「る。
想い人がいる女性を我が物とするべく呼び捨てにし、追い詰められて叫んでしまう《名前》を曝し、あちこちに散らばる異常者達に情報を開示して共有しあうつもりだ。
「わ、私が誰と付き合おうがアナタなんかに関係なッッッ…イヤああぁッ!!??」
いきなり前土台を掴まれて引っ張られたブラジャーは、背中のホックをバチンと飛ばして抱擁力を奪われた。
胸を守る唯一の防着はTシャツと共に後頭部に引っ掛けられ、お椀型の小振りな乳房と、小麦色をした尖端を丸出しにしてしまった。
『んだよコレは?乳首ってのは普通はピンク色してんだろ?そうかあ、日焼け≠キるまで《青姦》してんのかあ……クククッ』
「ッ〜〜〜〜〜!!!」
色素の個人差を嘲り笑われると、明日香の心は激痛を発した。
今まで肉体的な関係を築いた異性は、こんな事は言わなかった。
多感な思春期でなくても、女性ならば身体的な悩みはあって当たり前。
誰もが認める美貌の持ち主の明日香でも、それは例外ではなかった。
『こんなになるまで青姦してるとは相当な《好きもの》だぜ。やっぱ「誰かに見られてるかも?」ってドキドキが堪らねえんだろ?』
『じゃあもうガッツリ撮られてるってのは「嬉しすぎる」ってカンジか?ライトは当たってるし皆んなにガン見されてるし、オマケに教え子まで見てんだからなあ』
「……ッ!!……ッ!!」
嘲りと罵声の刃がグサグサと心に突き刺さってくる。
まるで斗真との情交が野外でも及ぶかのような言い振りは、それはそのまま斗真への侮蔑と繋がっているからだ。