血統書つきの美少女-2
涼花は生まれて初めて感じた首への圧迫感に、この男の異常さを改めて感じざるを得なかった。
この男は、自分の言葉に耳を傾けたりしない。
どんな痛みや苦しみを訴えても、それを労ったりしない。
文字通りに首根っこを掴まれてしまった涼花は背筋が凍ってしまうほどの恐ろしさに包まれてしまい、そして唯一頼れる存在の明日香の今の姿を瞳に捉えた瞬間、その恐怖には絶望がくっついた……。
（……この人にもっとイヤなコトされるんだ…ッ……イヤな…い、イヤなコトッッッ）
椅子に拘束された明日香は、モガモガと唸りながらＶの字をした鉄パイプの形通りに屈伸運動を繰り返すだけだ。
グルリと取り囲んでいるカメラマンに撮影を止める意思など望むべくもなく、自分を抱いている変質者の生臭い吐息に涼花の恐怖心は膨らみっぱなしだ。
『涼花ちゃんてさ、可愛いタヌキ顔だよね？クリクリお目目だけど、ちょっと垂れ目なカンジがさあ……フヒヒ？』
「ッ〜〜〜〜」
男は首輪についたネームプレートを指先で弾きながら、ジロジロと涼花の顔を眺め回してきた。
あまりにも気持ち悪くて目や顔を背けたくなるが、なにをされるかと思うと怖くて視線を外せない。
『……この白いセーラー服が〇〇中学校の制服だって知ってたけど……どうして涼花ちゃんのコトを見逃してたんだろ？もしかしたら転校生なのぉ？』
「ッッッッ……!!!」
ここの都市には中学校が何校かある。
確かに目立ちやすい白いセーラー服なら、どこの中学校か知っていたとしても不思議ではない。
だが、なにか得体の知れない〝異物感〟を、涼花は感じていた。
たまたま見かけたから拉致したという短絡的な犯行ではない……ずっと、心の中に引っ掛かっていた疑念が、そう感じさせていた……。
「い…いつから〝つけてた〟の…？たまたま見かけて……こ、こんなコトになるワケない…ッ」
『……ん？なあに涼花ちゃん。もっと早くボクに見つけて欲しかったの？』
いまの涼花の不可思議な台詞に何かを勘づいた鈴木は、チラリと明日香を見た。
モガモガと唸っているのは相変わらずだが、首を左右に振って、必死になって涼花に何かを伝えようとしているのが読み取れた。
この森口涼花という少女には、何かがある……鈴木はスマホで涼花のフルネームを検索してみた……その結果は、やはり佐々木という男は〈もっている〉と知らしめてくれた……。
『っとお、横から失礼するぜ。ほら、ちょっとコレを見てみろ』
鈴木から手渡されたスマホの画面を見た佐々木の顔が、ストッキング越しにでも上気していくのが分かった。
そこには涼花が〈勘違い〉してしまうのも無理がないと思える、輝かしい経歴が羅列されていたのだから。
『これホントぉ？涼花ちゃん凄いじゃない！カメラマンさん、ほら撮って！ええと、
森口涼花……〇〇プロダクション第○回キャラバングランプリ優勝。写真集［ＨＡＰＰＹだよ！］でグラビアデビュー。〇〇戦隊アレナンジャーのアレナンイエローの妹・花岡ことは役で女優デビューも果たした期待の新人女優……だってさあ』
……涼花は墓穴を掘ってしまった事に、今更になって気付いて茫然としていた。
明日香もまた、涼花が普通の少女ではないのがバレてしまった事に項垂れてしまっていた。
（……し…知らなかったんだ……この人達…ホントにたまたま見かけて……ッ）
（さ、最悪だわ…ッ……ああッ!?あ、アイツの顔がどんどん赤くなって…！）
性犯罪を犯す者からすれば、アイドルや女優という肩書きを持つ女性は、喉から手が出るほど欲しい存在のはず。
ましてやコイツらはレイプ動画を撮り、それを売り捌いて稼いでいる連中なのだ。
手中に収めた少女の正体が、女優・森口涼花だと分かったならば、間違いなく大々的に宣伝して売りまくるだろう。
いや、それどころかペットとして飼育している光景まで撮りまくり、何度も何度も撮影を繰り返して作品を排出し続けるかもしれない。
涼花の〈全て〉が、この監禁部屋の中で消耗されてしまうのは、もはや火を見るより明らかであった……。
『芸能ニュースなんて見ないから、全然知らなかったなあ〜……あ、スク水のグラビアもあるんだあ。ああ、これなんかビキニ着てお股開いちゃって……〝すーちゃん〟て以外と大胆なんだねえ〜』
「ッッッ!!!」
画像検索で出てきたグラビアをカメラに見せ、そしてニックネームで涼花を呼ぶ。
まだ制服は着たままなのに、涼花は丸裸にされてしまったような気持ちになってしまっていた。