人質交換/カプリコン二号機とミケ・トラフグ-1
1
女は「味方」のところに送り届けてやる。
州軍閥の軍事法廷の判断は、つまり盗賊・カルト集団のゲリラ勢力と利敵・通謀して有罪となった女(近親者も含む)を「人質交換」のために有効に使うというものだった。
裁判官の祖父がゲリラ勢力につながる要塞都市内部のマフィアやスパイ・ネットワークと親しく、何度も不正な判決を下して銃殺刑になった三日後。
ナタリアは他の十数人の女たちとともに、輸送用のコンテナに詰め込まれた。
2
モスグリーンのカプリコン二号機のコックピットから、護衛中の「取引材料」を見て、少し気が重い。プロメテウス型二足歩行戦車の背後のコンテナには、十数人の「元」同胞の女と抗生物質などの医薬品の段ボールが積載されている。
多くは自業自得や近親者の連座で、合理的な活用かつ見せしめでもある。仕方のないことだった。
もう一機の護衛として、二機目の武装したプロメテウス型(通称イヌノフグリ)とやや背の低いガバナー歩兵型が同行している(軍事用途を主眼にして開発され、州軍閥戦闘部隊の配備機体は民間に出回っているものよりハイスペックだ)。他にはキャンサー型と呼ばれる中型ウォーカーも同行していたが、それも引き渡されるのだ。キャンサー型は戦闘用にも使用可能だが、メインは作業用で脅威度は低い。
やがて、山岳地帯の取引場所に到着する。
ゲリラ側のトラックに載せられたのは、三十人あまりの拉致されていた女たちや少年兵士たちだった。
救出される女たちが安堵した表情ながらも、憔悴と苦悩の色濃い影を漂わせていることは当然だろう。日々に虐使と輪姦で人間以下の奴隷として扱われていただろうし、どうせ人質交換の前にと送別会のお祭り気分で無茶苦茶な陵辱でもされたのは目に見えている。若干の少年兵士たちも拉致されて悪事への加担を強要されていたわけで、安心と不安が入り混じった複雑な表情だった。
3
最後まで、しがみついてでも抵抗してやる。
そんな決意にすら意味はなかった。
人員と物資輸送用のコンテナは二つあり、片方には交換用の「不要な」女と医薬品の段ボール、もう一つは空だったのだ。
輸送担当のプロメテウスが足をかがめ、州軍閥の兵士たちが救出される者たちに手を貸し、護衛の三機にも油断はない。連れ帰る人々を励ましながら搭乗と確認を済ませたのち、クレーンとウォーカーの手で下ろされていた「不要な譲渡品」のコンテナは丸ごと引き渡された。
コンテナの扉が開いたとき、入ってきたのは、州軍閥の兵士や村人の義勇兵とは雰囲気からして違う男たちだった。早い話が「無法者」や「犯罪者」のオーラを放っていたし、服装や臭いからして「山賊風」だった。
「出ろ。一列だ」
まさかすぐには殺されないだろうとたかを括っていても、不用意な行動は暴力で制裁された。自分は「違う」から「要塞都市に帰る」などといった女の一人が、まず殴り飛ばされて引きずり出される。
その場で即座の集団強姦が始まった。
銃を持ったゲリラ兵士たちの指示でコンテナを出て、トラックに乗り込む。たとえ目をそらしても、悲惨な声と暴力の物音は聞こえてくる。
そして、彼方を一瞥すれば、遠ざかっていく味方のロボットウォーカーの姿。
文字通り「捨てられた」のだ。
急に痛烈な実感がこみ上げてきて、目に涙が溢れた。