『彩音〜刻まれた夏の熱〜』-4
優しさという荒々しさ。恭一の愛撫が私の五感を捕らえて離さないのは、そんな微妙なバランス。思春期の少年の様な夢中さ…。慣れた大人の様な巧みさ…。相入れない両極が、不思議な心地よさで、解け合っている。だから…だから…私は…濡れる。激しく、濡れる。溢れる様に、濡れる。恭一は、そんな私の愛液を楽しむように、指先で弄ぶ（もてあそぶ）。第1間接を軽く曲げ、小さく振動。焦れる私を確かめて、第2間接を埋めてくる。眉間に寄せる皺。半開きの唇。乾いた前歯。伏して願いを乞う奴隷の様に、私は自ら腰を浮かし、恭一の愛撫を欲しがる。耳穴に舌を入れ、恭一の細い指が全て、私の“中”に…入ってくる。入ってくる。全て、入ってくる。子宮が、ざわめき始める…。
耳の内側で、自分の喘ぎ声が反響している。淫らで、いやらしい、粘ついた、声…。見なくても…分る。解る。判る。恭一の指が、私の愛液で、濡れ光っていることは。恭一は悪戯っぽく、私の腹部に、濡れた指先を塗りたくる。唇の小さな笑みを、空気で感じる。軽く息を吸って、キス…。乾いた前歯を、恭一の舌先が潤してくれる。愛しさが、胸を圧迫する。息苦しいほどの愛しさを、私は恭一で初めて知った。額に生まれた一滴の汗が、こめかみから頬を伝い、顎にぶら下がる。私は唇を尖らせ、それを、飲む。脚を割って、恭一が身を沈めてくる。いきり勃ったペニスの先端が、淫らに呼吸する縦筋の花丘に、触れる。“早く…早く…”うわ言の様に、本能が胸の奥で囁いている…。
交差点で。カフェで。恭一に視線を送った女達。今、私は、大きく脚を広げ、その恭一を迎え入れようとしている。優越感が背中をくすぐる。膣中に埋め込まれた、疑う余地のない、恭一という存在の証し。愛しさが喘ぎとなって、悦びが愛液となって、恭一の力強い突き上げを包み込む。秘部が意思を持って、恭一のペニスを包み込む。擦れ合う肉と肉が、絶頂へと導く快感を育む。髪を振り乱し、汗を飛び散らせ、不乱に突いてくる…。惜しげもなく、遠慮もなく、この瞬間だけ、恭一は自分本位だ。でも、それが、嫌な訳では決してない。むしろ、恭一が私の体から快感を受けていることに、大きな幸せを憶える。女でよかった…と。私が、女として存在することの、悦びを感じる…。
冷たく曇ったペットボトルを、私の頬に当てる。首をすくめる私を見て、大きく笑って見せる。ベッドの中に漂う、二人。上がった体温を、夜中の風が撫でながら冷ましてくれる。静かな会話の合間合間に、キスを交わす。裸のまま。ベッドに浮かぶ、影。私が愛する美しい顔。指で撫ぞって、輪郭を確かめる。
「明日からロケだからな…」
「聞いたよ」
口付ける。微かに舌先が触れる。これ以上触れてしまうと、また求めてしまう自分を知っている。
「迎えに来てよ…駅…」
「時間、メールして…」
口付ける。裏腹…伸びてしまう自身の舌先が、恥ずかしくも愛しい。絡める。吸い求める。唇で、挟み込む。肩を震わせて、新しい愛撫を受ける。時間が、私達だけのものに、なる…。