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『彩音〜刻まれた夏の熱〜』
【その他 官能小説】

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『彩音〜刻まれた夏の熱〜』-10

タイトスカートをめくる。自分で。ここまで、淫ら…。ずり降ろすショーツ。自分で。こんなに、淫ら…。片足。膝あたり。留まったショーツが、滑稽にも卑猥。愛し過ぎてしまった。激しく高ぶる鼓動を耳に聞きながら、私は恭一に、またがる。しかと根元を指先で誘い、自身の濡れた秘部に導く。低い呻き。糸を引く喘ぎ。腰を沈め、恭一を逃がさない。前後に摩擦する“二人”が、水音を立てる。密着したシャツとシャツが、擦れ合いながら、互いの胸の蒸気を放つ。生暖かい吐息を口移しに運ぶ。そう…距離でなく存在。確かな感触に射抜かれて、はじめて得る、存在感。このまま時間を止めて、永遠になってしまいたい。“いかないで…”言葉に反して、私の体は、燃え尽きようとする…。

 「うぅうっ…」
白く透明な肌。涼し気な目。綺麗な恭一の顔に、力ない影が浮かぶ。激しく上下する私の腰が、その顔の眉間に皺を与える。
「イク…よ…彩音」
奥歯を噛んで、私の名を呼ぶ。皮肉に放出された、おびただしい熱が、私の子宮をくすぐる。脈打って、小刻みに動いて、心音が平静を取り戻そうとする。私の中に、恭一は、居る。今、この瞬間こそが、私の全て。乱れた髪が、窓ガラスの中で、闇と混じり合う。小さなキスを、一度だけ。交わして、私は身を離す。ドロドロとした熱が、余韻と呼ぶには淫らなくらい、皮肉の中に生きている。生唾を飲んで、私はショーツを上げ、タイトスカートを下ろす。まるで、その熱を逃がさないように、手早く…。

 「疲れたろ…」
悪戯っぽく、恭一が笑む。
「運転…変わるよ」
優しく、恭一が笑む。走り出した車。二人の空間。恭一の開けた窓から、さっきまでの熱気が奪われていく。鼻筋の通った横顔が、いつも以上に愛しい。白い月が、恭一の瞳に、ある。愛し過ぎてしまった。だから、何かが変わってしまうことを許せない。胸に目覚める、愛しい狂気。愛し過ぎてしまった。だから、何かを失ってしまうことに耐えられない。胸を突き上げる、狂おしい欲望。このまま…このまま、永遠にならなければ、いけない。私は、そう、願う。このまま恭一という存在を、永遠にしたい、と。月明かりを受け、影を帯びた恭一の頬に口付ける。流れる景色に目を閉じて…何度も口付ける…。

 「危ないよ」
優しい声を耳に受けながら、私のキスは、愛撫へと変わる。頬を舐め、耳たぶを噛み、首筋に滑り込む。
「危ないって…」
私の瞼にも、同じ白い月が、映っている。
「恭一…」
私は正面からその綺麗な顔を捉え、強く口付ける。背中でハンドルを、一気に切って…。私は、愛し過ぎてしまった。それは、愛され過ぎたから。誰もが羨む存在を抱きしめた。誰もが欲しがる存在に包まれた。だから、願った…。投げ出されたアスファルトに、永遠が転がっている。折れ曲がったガードレールに、白い月が、突き刺さっている…。時間が、止まった…。

 距離でなく、存在。私は、これからも、恭一を愛してゆく。片付けられた部屋を見た時、不思議と涙は溢れなかった。肩を落とした夫妻に、あのスクラップブックをもらった。距離でなく、存在。私の中で、恭一は絶対的な永遠となった。私に一番近いところに、恭一は、居る。そう…私の中に、恭一は、居る。新しい命となって、私の中に、居る。春には、抱き上げてあげるから…囁きながら私は、深い眠りに落ちる。蒸し暑い、初夏の午後のまどろみに…。


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