それぞれの思惑-2
「実はその娘のお満をモノに出きるとしたらどうされます?」
その言葉にお早世の方が反応した。
「えっ?お満をってどういう事ですか?」
「おや?淫乱なお早世殿でも、姪の事は気になるようじゃの」
男の懸念顔に対して、お早世は卑猥な笑みを向けた。
「いえいえ、お敏が女の悦びを知らぬままだったのが不憫なのでございます。せめて娘のお満には、コレの良さを教えてあげたく思うのです」
お早世が男の股間に手を伸ばした。
「ならば、お満を手込めにしても良いのじゃな」
お早世の手の動きに、だらしなく微笑む男が確認した。
「うふふ、その時は私も一緒に手込めにしてくださいませ」
「わははは、それは楽しみじゃの。で、肝心なお満はどこにおるのじゃ」
「実は庇護した我が家から逐電し、市中の道場に隠れ住んでいるのです。亀起道場の亀起瓶之真はご存知ですか?」
お満の行方は、昼間に探らせていた小者がつき止めていた。そこの道場主の瓶之真の事を、剣士の一面を持ち、新亀流の免許を持つ男に、餅右衛門が尋ねた。
「いや、知らぬな」
お満の女体を思い浮かべた男は、気もそぞろに軽く流した。
「ほら、今のお屋敷から少し先に道場があるでしょ」
「おお、あの貧乏道場か。なら、少し金を積めば済むであろう」
「ええ、そう考えているのですが、万一が…」
餅右衛門は言い淀んだ。
「なるほど。金で解決しない場合に備えて、それがしに声をかけたのか」
男は目を細めた。その殺気の籠った男の目力に、餅右衛門は震えた。
次男坊だった男は、本来ならば家督を継げるはずではなかった。家督を継ぐ長兄が居れば、それ以降の男子はただの穀潰しだった。厄介者として肩身の狭い思いをするのを嫌った男は、武芸で名を馳せて、男子の居ない他家への婿養子を狙っていたのだ。
食べ物も女も儘ならない厄介者は、勝手気儘な長兄を見ているうちに、かなり鬱屈した性格になっていた。
そんな苦労も長兄が他界した事で急変した。長兄に男子の継承者がなく、男にあっさりと家督が舞い込んだのだ。そして男は下役には厳しく当たり、上役に媚びを売って力を得ていった。
こうして、男は一目を置かれる武芸者の一面を持ちながら、権力者の立場を得るに至ったのだ。しかし、その鬱屈した性格が変わる事はなかった。
「お、お怒りですか?」
餅右衛門は恐る恐る聞いた。
「何を言っておる。棚唐殿とは一蓮托生、無下に断れぬよ。何よりも、お早世殿は元より、お満まで味わえるのじゃ。棚唐殿には感謝しておるぞ」
「安心しました。ならば早速ですが、亀起道場へ向かいましょうか」
「善は急げと言うし、そうするか。お早世殿はその姿で行くのかの?」
「あい。先ほどの駕籠かきは、私が呼べば、いつ何時でも来るので大丈夫です。駕籠屋に小者を走らせます」
「ははは!拙者には兄弟が沢山おるようじゃの。穴兄弟が。駕籠をかかせた後は、どこを掻かせるのやら」
その駕籠賃の報酬を想像して男は笑った。