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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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幽霊の義妹はご機嫌斜め(後日談)-3

5
 二宮アヤはホテルのフロントに座っていた。彼女は管理システムの「増設メモリ」のような一面があるため、拠点である水母天使駅の構内にいることが圧倒的に多い。
 あのコアラたちのメトロ車両「ネメシス号」は「復讐と懲罰」の手引きを業務としている。これは磨乃が専属の車掌代理を務める「オルペウス号」やアヤのいるホテルと類似の超常のメカニズム機構で、発生する苦悶と悦楽(や感情と情緒)からエネルギーを回収しているのである。
 すぐ上の駅の図書室で本を貸してくれるから、客待ちに退屈することもない。

(縁は異なもの、だわ)

 それは必ずしも男女の縁だけの話ではない。
 複雑極まりない、複数の時間路線さえ横断して結びつけ、絡めとるような因果と縁起の作用は奇異としか表現できないだろう。二宮アヤや磨乃やサリーナ(や現世回帰したカリーナ)も、そういった機縁からこのメトロの職員になった事情がある。
 彼女たちは「幽霊のようなもの」で、先輩格である途野磨乃と同様、この地下の世界に引きこまれた。違いは磨乃が肉体や存在丸ごと取り込まれたことに比べ、アヤの場合には地上に残した肉体は「既に死んで」いる。以前に半死状態に陥った際に、完全な死を免れてこの都市伝説のオカルトな界隈で永遠に(?)生きることになった。
 アヤの特殊性として、拠点基地でもある水母宮殿駅の駅長と「縁」があるらしい(実体と影のような表裏で分身や姉妹・娘のような関係なのだとか)。そのために力を増幅する意味合いでも、同じ施設内で勤務することが求められた。
 もちろんアヤからすれば事のさわりの説明はして貰ったものの、あまりにも話が摩訶不思議で壮大すぎて実感は湧かない。けれども深遠な事情こそ理解不十分でも、彼女からすれば今の環境は割合に気に入ってもいた。
 今日も小さな地下街ホテルの受付で、さほど頻繁ではないお客のためにフロントを守る。

(この間のお客の莉亜ちゃん、喜んでくれて良かった。だけど今日は暇だわー)

 湯気を立てるストレートの紅茶を飲みながらロートレアモン伯爵の「マルドロールの歌」なぞをパラパラとやる。アヤは一人でいるのも嫌いではなく、静かな読書の一時を楽しむ。

(初っ端から「児童虐待はサイコー」とか、飛ばし過ぎ。マジで頭オカシイわー)

 これは昔のフランスの病的な詩人(南米出身?)が書いた狂った象徴散文詩で、「伯爵」と名乗る筆名も出任せジョークの詐称。ひたすらに言葉とイメージの混乱した奔流が面白いだけで下劣、ボードレールの退廃詩とかの方がまだ上品かと思われる。
 けれども推理やサスペンスの人殺しや犯罪と狡知の策略、それから怨恨話と幽霊や怪奇、説明不要の色恋沙汰と痴情と濡れ場の需要は昔から創作でも現実でも尽きない。たぶん下世話な話ほど、万人にとって広範かつ平等に面白がられるからなのだろう。
 ふと顔を上げれば、あの真ん丸い眼鏡の先輩、うら若き女車掌が差し入れのドーナツの包みを持って立っている。小柄ながら威風堂々、曲者ぶりでは人後に落ちぬ途野磨乃には、アヤも流石に一目置いている。

「すごく邪悪な笑い方してたよ? お兄ちゃんのこと? それとも息子君のこと?」

「いーえー、ブンガクのせいですよ。お兄ちゃんと玲君は「私にとって純愛」ですから」

 それからアヤがスラスラと不埒な一節を朗読し、磨乃はケラケラとお腹を抱えて笑った。

(「幽霊の義妹はご機嫌斜め(後日談)」完)


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