その愛は座薬-3
3
「申し訳ありませんが、男の方へのお着替えサービスは取り扱っておりません」
あの受付娘は天使のような含み笑顔でそう言ってのけた。
その結果、リョウは一糸纏わぬ全裸で屋内温泉に浸かることになる。
四人くらいは楽には入れる浴槽で、ほんの五十センチくらいのところで、白ビキニの莉亜が同じお湯に浸かって伸びをしていた。若緑がかった色合いのお湯は熱くもなくぬるくもないちょうど良さで、しばらくは負担なく浸かっていられそうだった。
「生き返るねっ! 健康にも良さそうだし」
莉亜はキラキラと、まるで恋人を見るような顔でリョウを眺める。
あいにく少年はそれどころではなかった。
ずっと秘蔵の一角獣が最大に腫れ膨れ上がってしまい、水流だけで感じてしまうような敏感センサーのアンテナと化している。
もしもタオルで隠そうとでもしていたならば、迂闊をすればその布の刺激でさえも自爆・暴発しかねない危うさなのだが、莉亜の「隠さずに堂々としたら?」とのリクエストで隠していなくて、緑に濁った水面だけが辛うじての目隠しベールになっている。
(先にトイレで抜いておいたら良かったかも)
そんな男らしいかもしれない、リョウの苦悩と後悔は先に立たなかったようだ。
水の流れが寄せてくる。
莉亜が隣りに身体を近づけてきたのだった。
「こんな広いお風呂とか、めったには入れるものじゃないわ。あなたはどうか知らないけど、ね。こんなふうに足と身体を好きなだけ伸ばせるのなんて、銭湯とか旅行の旅館とかくらいでしょ?」
銭湯に比べれば三人・余人の貸切用だから、小ぢんまりしてはいるけれども。
だが莉亜にとっては新鮮な経験でもあるらしい。
「私って、銭湯の大きなお風呂なんて全然行かないし。それにさ、学校の修学旅行とかも行ったことないんだよね。中学のときは遠くに行って二泊なんて無理だったし、高校も途中で中退しちゃったからさー」
憂いを含む眼差しで莉亜は天井を見上げる。
日常の雑談のような軽々とした告白には特殊な境遇への苦悩が透けて見えるようだった。リョウはどうにか平静を保って、明るい口調で指摘した。
「銭湯や修学旅行は混浴じゃないと思うけど。あんなの、大勢で入ったり時間区切られたりで、そんなにいいものじゃないよ」
「そうなのかもね、アハハ」
湯気に濡れた莉亜の横顔はまるで雨に打たれたかのようにも見える。
そして彼女はお湯で顔を洗った。笑っているのに、どこか泣いているみたいだった。
「でも今は、すごく嬉しいかも」
温かで濁った温泉の中で黙ったまんまで手が手に触れてくる。
(莉亜さんが自分から手を握ってきた?)
予想を超える積極さにリョウは驚きと喜びを覚えた。
とうとう肩がぴったりとくっついてきてしまう。そのまま恋人のように腕と腕を絡めてもたれかかってくる。ビキニの上からとはいえ、横乳の弾力と素肌の感触で、リョウは沸点に達しそうになって顔色を変える。
「ご、ごめんっ!」
リョウが慌てて立ち上がったのは限界を自覚したからだった。
不思議そうな顔で眺める莉亜の見ている前で、抑制の外れかかった少年は浴槽の低い縁をヨロヨロと跨ぐ。膨張した一角ウインナーをブラブラさせている。手で隠す余裕もない。
(うわっ!)
極限に達したリョウの興奮は、まだ何もされないうちに爆ぜてしまっていた。
引き金外れて生理反射が始まってしまえば意思ではどうしようもない。
ピュッピュッと白濁の精液がタイルに噴出し、粘った重さでポタポタ飛び散る。
「あー!」
「おぉー! うっわ、やだぁー!」
振り返れば莉亜がわざとらしい非難の黄色い歓声を上げながら、お風呂の縁に腕と顎を乗せて面白げに高見の見物しているのだった。
目許と面差しにはお湯のせいだけでなく、興奮したような紅潮の気配が漂っている。
(リョウ君、すごいイイ顔してる。男の子がイクところなんて初めて見たけど、あんな感じてるヤラシイ顔をするのね!)
莉亜がガッツリとその様を網膜に焼きつけてしまったのは内緒だろう。