復讐志望の少年-4
4
別れ際に少年がキスしたのはカリーナだった。
「あんたの勝ちね。とりあえず、チョコレートパフェでいい?」
サリーナは笑って負けを認める。
最初から、あの少年が二人に異性として魅力を感じているのは明らかで、どちらに転ぶかでスイーツの職員配給チケットのパフェを賭けていたのだ。
「いいよ。今日は私に奢らせて……ホットケーキでも焼こうかしら?」
キッチンで浮かれた足取りのカリーナはホクホク顔で幸福そう。
だが彼女たちからすれば「男(の子)の特別な存在になって記憶に残りたい」というのは、ただの欲情とはまた違う強烈な願望でもある。二人が失った過去の可能性への埋め合わせは束の間の快楽だけで足りるものではない。
きっとマコト君はカリーナたちを「永遠の女性」として覚えていてくれるのだろう。
「今度いつか会ったら、二人がかりで犯しちゃう?」
「うみゅー、楽しみ。でも今はキスのことだけでハッピーかも。るるぅ〜」
浮かれ調子のカリーナが鼻唄混じりにホットケーキの粉を混ぜる。勝手知ったる女同士(肉食系)の会話は、生々しい淫靡な邪悪さと貪欲が剥き出しだった。
サリーナはベッドサイドのテーブルでトカレフ拳銃の分解掃除をやり始める。この銃は生前の思い出の品でもある。これで生前に親の仇で恨みのあるヤクザに存分に鉛弾を乱射したのだ。
(元気になって良かった。カリーナ、弟のこと思い出して泣きそうな顔してたもの)
最初にマコト君がメトロに来たときのことを思い出す。あのときカリーナは「なんとかしてあげなきゃ」と、オロオロと心配そうにうろたえていたものだ。彼に弟の二の徹を踏ませるのを避けるため、少年の復讐幇助に否定的なコアラ車両長にゴネたのも彼女だった。
それに今回はピュアな初恋への憧れや願望も同時に叶ったのだから、カリーナが上機嫌なのも無理はあるまい。あんなふうでも結局のところは「女の子」なのだ。愛への欲求は心理面でも物理面でも半端でなく、だからこじれてサキュバスになったんだろうと思う。
(この子って、死んだ頃の清純な気持ちのまんまなのね)
サリーナはどこか羨ましく、愛しい気持ちで、カリーナの鼻唄に耳を傾ける。その軽やかな曲はたしか、復讐を叱咤・教唆する「夜の女王のアリア」だった。