復讐志望の少年-2
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そのときカリーナが顔を出し、二人に呼びかけた。
「ご飯出来たよ」
カリーナは駅地下のカフェ店(通常は使われていない)の厨房で料理を作っていたのだ。
肉野菜炒め三人前のテーブルを囲む。
「おいしい」
ちょうど空腹になっていた少年が舌鼓打つのも当たり前だった。
「そりゃそうよ。カリナはこう見えても、プロの料理人の娘だものね」
サリーナの箸を運びがならの説明にカリーナは誇らしげに胸を張る。
「これってお父さん仕込みだからっ! こういう料理って、パッと見は簡単なようでも、コツとか調理法があるのよねっ! 『簡単に見える普通の料理が実は一番難しいんだぞ』って、よく言ってたわ。この前のシューマイはママの得意料理なのよ。もう二人とも死んじゃったけど」
「そうなんですか」
「うん」
沈黙。
マコト君は「どうして?」と無言のままに、口に出せずに目で問いかけている。カリーナは目を伏せてちょっとだけ困った顔で答えた。
「もう昔のことだし。私たちが幽霊みたいなものだって、話したでしょ。だけど私たちだってマコト君みたいな因縁や恨みがないわけじゃないの。だからマコト君もあんまり変に思い詰めても、いいことないと思う」
サリーナと目線を交わすと、相方の真情を察している様子である。
だからカリーナは論理立てて話すのは難しいながらに、どうにか思っていることを伝えようとする。
「怒って悲しくって、どうしようもないのはわかるけど、それで道を間違ったらどうしょうもないでしょ? 私たちだって、今はどうにかこーにか上手くやってるけど、一時期は酷いもんだったんだから」
「そうね。ヤクザに銃乱射して自分も死んでたら世話ないわ」
サリーナが朗らかに我が身を笑った。
「かえって怒られちゃうわ」
過去に「やらかした」人間の言葉であるだけに妙に説得力がある。
再びカリーナが似合わぬ真面目さで話を続ける。
「良かれと思っても、やり方間違えるととんでもないことになったりするんだから」
「そうなんですか?」
カリーナはしばし考え深い様子で腕組みなぞしてから、両の腕をほどいてテーブルに身を乗り出す。少年の問い返しに真剣な眼差しで答える。
「そーよ。だから、マコト君は今すぐにヤクザを鉄砲で撃つとかするよりも、これから頑張って、将来またそういう自分が経験したような酷いことが起きないように、夢とか理想とか、頑張ったら良いと思う。それで助かる人も絶対にいると思うし、私たちだって、最初からそうできたら良かったかもしれないって思ってるし、そう思ってるからこの異空間のメトロで働いてるのよ」
彼女なりに、口下手ながらも大事と思うことを伝えたいのだ。