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ネメシス・コアラの逆襲
【コメディ その他小説】

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復讐志望の少年-1

1
 地下鉄駅の構内で射撃訓練をさせてはいけません。
 ここ(異空間メトロ)にはそんな法律はない。

「はい、ちゃんと照星で狙いをあわせて」

 サリーナが少年の背後から抱きしめるように、拳銃射撃を親切懇寧に教授している。
 マコト君はこの列車(ネメシス号)の「お客様候補」なのだけれど、まだ中学生ではいくらなんでも幼すぎた。そんな子供が大勢のヤクザに復讐しようという時点で無理があるし、たとえやり遂げても後の悪影響が問題でもある。
 ただ、それでも全くの見殺しに放置すると暴走・自爆してしまうリスクもあるため、二人の車掌娘たち(サ・カリ)は休日暇潰しの趣味も兼ねて、定期的に「特別授業」を施してやることになっていた。
 彼女たちの過去の経験からすればこの少年の境遇は他人事に思えない。
 それに車両コンセプトの「ネメシス」とは復讐と懲罰の女神の名前であり、理不尽な殺人などの晴らされぬ重罪を懲らすことを主眼としていて、正義や公正さ、復讐の正当性が大前提でもある。だからしょうもない私怨や逆恨みの類は基本的に取り合わないのだが。
 その意味でマコト君は紛れもなく「正当なお客様」でもあるのだ。だから他所の狂った思想の「駅」の邪悪な車両には乗せたくない。
 だからひとまずは拳銃の撃ち方やら喧嘩のやり方やらを教えてみている。
 将来的にちゃんと「復讐」できるように。
 もちろん直接役に立つかどうかはわからないにせよ、まだ思いつきで恨み相手を刺してしまうよりは、やり場のない怒りの感情やエネルギーの適切な処理方法だろう。

(「ねえ。悪い人は、あなたの恨みの相手だけじゃないのよ?」)

 そんなふうにしばしば言い聞かせるのは、ただの目先の恨みのためにこの少年の人生が台無しにならない配慮でもあった。
 サリーナやカリーナだって、自分たちのやり方が対処両方でしかないことくらいは分かっている。彼女たちの浮世の人生は出鼻の中途で終わってしまったとはいえ、託したい思いがないわけでもなかった。
 これは三度目のレッスンだけれど、マコト君は落ち着いてきたみたいだ。
 ここの駅地下へ来る途中の車両の中で彼が「警察か法律家になりたい」などと話してくれたときは、サリーナとしては嬉しくもあった。彼女の生きていた頃には狂って腐りきっていたようだけれども、それでもちゃんとした専門家が増えれば、そんな悪状況も改善されるかもしれない。

 つい並んで座った手指を絡めてしまうと、マコト君は赤くなったものだ。
 それから今の射撃訓練でも、背中にオッパイを感じて動揺しているのが微笑ましい。

「どうしたの? 集中できてるぅ?」

「その、背中に」

「なーに?」

 サリーナは拳銃保持を教えがてら、背後から抱きすくめる姿勢をとってニヤニヤ笑う。
 心の中で楽しみつつ、しれっとして耳元に甘い息を吹きかける。
「平常心って大切なのよ」
「は、はい」
 マコト君はそれ以上は言えなくなってしまう。
 こうして気がまぎれ、短絡的な復讐心が和らいだのはいいことでもあるだろうか?


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