姑(しゅうとめ)の青春-2
2.
日ならずして、良和からミロンガへの誘いが来た。嫁の千代子にそれとなくほのめかすと、さっそく良和に伝えてくれたらしい。
タンゴは良和と共通の趣味、趣味の世界では男女、歳の差を超越する。姑と嫁の兄が少々親しくしたとて、さして気を遣う必要はあるまい。
静枝は、良和にダンス会場のレストランにエスコートされた。あまりお腹が空いていないと言う静枝の言葉に、良和は400グラムの黒毛和牛のステーキを注文して、二つの皿に切り分けた。
グラスに注がれた赤ワインが、シャンデリアの灯りに照り映える。
「乾杯」
「かんぱい」
さりげない、平和でロマンチックな光景に、静枝の胸は震えた。これまで過ごしてきた人生は何だったのだろう。豊かな生活、やりたいことは何でもできた。それが何だったんだろう。
想う人と差し向かいで、ワインを交わす。その人は、優しくステーキを切り分けてくれた。まるでドラマの一場面の様だ。
良和に手を取られて、ダンス会場に向かう。グラス一杯のワインで、気分は上々。今日は良和がいる。怖いことは何もない。ダンス会場で、誘ってくれるパートナーのいない、あの惨めで寒々とした状況は心配しないでいい。
良和のリードで、フロアに出た。二人の好きなダリエンソのスタッカートの効いた曲が流れている。DJが、良和の顔を見て掛けてくれたのだろう。
胸を合わせて、頬を寄せて体が流れる。
「何も考えるな、音楽を聴いて、ひたすら付いて来い」
良和は、女性には男性に付いていく本能的な能力があると言う。言われるままに、ひたすら付いていく。一杯のワインで、早くも脳は夢心地。良和の胸に誘われるままに、身体が流れていく。
3曲ごとに幕間が入り、オーケストラが変わる。静枝は、良和からタンゴの基本的な歩き方を習った。オーケストラが変わり、リズムが変わる。何も考えずにひたすら良和についていく。
「少し疲れましたね」
「ええ、よく踊ったわ、良和さんだと、どうしてこんなに楽しく踊れるのかしらねえ」
時計を見ると2時間近くが経っている。ほとんど休まずに踊り続けた。
「出ましょうか?」
「ええ」