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【学園物 恋愛小説】

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想[9]-2

未宇の家のチャイムを鳴らすと、スウェット姿で髪を三編みにした未宇が出てきた。
「ギリギリ?」
「うん、ギリギリ間に合った…どうぞ。飲み物持っていくから、部屋で待ってて」
「分かった、ありがとね」
階段を上って、目の前の扉を開けると見慣れた未宇の部屋があった。急いで片付けたような後があり、もはや勉強机としての役割を果たしていない"収納ボックス"の上に、引き出しに入りきらなかった漫画本や雑誌、一・二年次の教科書がバランスよく山積みされていた。
中央に置かれているテーブルに頬杖を付く形で座る。
「お待たせぇー」
開けっ放しのドアから両手に冷たいお茶を持った未宇が入ってくる。両手が塞がっているためか、足で器用に扉を閉めた。
「はい」
「ありがと」
私がお茶を受け取ると、未宇は向かいにあるソファへと腰を下ろし、一口飲んでからテーブルにグラスを置いた。
「んで、話って何?」
ニヤニヤしながら、上半身を乗り出す。
「私ね」
こくんとお茶を一口飲み、乾いた口内を潤した。
「暁寿と別れたんだ」
「は?」
未宇は一瞬真剣な顔をしたが、まるで、聞き間違いだとでも言うように笑った。
「アッハハ…何だって?もっかい言ってみ?」
「暁寿と、別れたの」
大きく見開かれたその瞳に、薄い膜が徐々に張られていく。
「だって、昨日まで普通にメールしてて…仲良かったじゃん…なのに急に」
未宇はソファから立ち上がり、ベッドに置かれていたケータイを手に取ると
「喧嘩して衝動的に言われたのなら、今ここでアタシが暁寿に謝らせる!」
未宇はカチカチとボタンを押す。私はそんな未宇の手首を掴みそれを制止し、その場に座らせた。
びっくりしたような未宇の目は、さっきよりも膜が厚く張られていて、いつ流れてもおかしくない状態だった。
「未宇、違う。私から別れを切り出したの」
「何で?だって、あんなに…」
未宇の目からすうっと、それはとうとう零れた。
「私、ずっと言ってないことがあって…。ごめんね、黙ってて」
瞬きもせず、未宇は真剣に私を見ている。
「あのね、私、名屋君が好きなの…。なぜか、気になるの。名屋君でいっぱいになる時がある、暁寿のことも考えられなくなるくらい、頭の中はいっぱいだった」
「未宇に言ったら、嫌われるんじゃないかと思って言えなかった。最低な奴って思われるかと思って…恐かったの」
ポロポロと未宇の瞳から涙が流れている。この涙は、何に対する涙だろう。この涙が止まる時、私たちはどうなっているのだろう。
「名屋君から傘借りたこともあったの。たったそれだけなのに、私はどんどんひかれていった」
「だから、私は暁寿と別れることにした。だって、名屋君を想ってるのに…一緒にいれないよ」
未宇は今だに無表情で泣き続けている。呆れてるかもしれない、ムカついてんのかもしれない…だけど、未宇には私の気持ちを知ってて欲しかった。
未宇の手が振り下ろされた。私はギュッと目を瞑りそれに応じることにする。
が、頬に暖かな温もりを感じただけだった。そっと目を開けると口を真一文字にして、私の頬を両手で包む未宇が目に涙をいっぱい浮かべて座っていた。
「何で話してくんなかったの!?アタシはそんなに信用ないの!?」
声自体はそんなに大きい訳では無かったが、ゆっくりと一句一句を私に語りかけるような強い口調だった。


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