癒えぬ飢え-1
夏美の美肉に舌鼓を打った男共は、その処理≠烽ルどほどに、二つほど県を跨いだ〇〇県〇〇市へ遠征していた。
この地に着いて、今朝で四日日。
何故わざわざこんなにも大掛かりな事をしているかというと、今回は最初から明確なターゲットが存在するからだ。
『もう下調べは充分だろ。今日こそ狩って姦り部屋に連れ帰ろうぜ』
まだ朝靄の残る住宅地に、二台の車が停まっている。
いつもの箱バンの隣には白い軽自動車。
当初はもう一台箱バンを買う予定だったが、小回りの利く軽自動車で獲物を探し、そして合流して拉致し、箱バンで輸送するという案に落ち着いた。
その軽は馴染みの解体屋から安く売って貰った型落ちのモデルで、そのありふれた車体は街に程よく溶け込んでいる。
その解体屋の裏の顔は車両盗難を生業とする犯罪集団で、盗んだ車を部品単位になるまでバラし、海外に売り飛ばすというやり口で金を稼いでいた。
もちろん途上国でも人気のSUVや、耐久性と悪路走破性に長けたCCV(クロスカントリービークル)を盗み出し、車体番号を削ってそのまま海外で高値で売るのもお手の物だ。
その犯罪集団から鈴木は情報≠得た。
一年ほど前、元アイドルで現・女優の父親が所有していた高級SUVが盗難被害に遭ったと報道された。
奴等が〇〇県〇〇市で盗んだSUVは一台しかなく、ボディーカラーもグレードも、履いていたアルミホイールも全て合致していた。
つまり、その家が彼女の実家だったというのが、車両盗難を働いた奴等だけにはバレるという結果を招いてしまっていたのだ。
『あんな報道なんかしなかったら、アイツの住所も俺達にバレたりしなかったのにな。別に所有者のコトなんか興味ねえってのに』
話題性だけを狙って報道された其れは、その車両を盗難した者達だけが、被害者となってしまった〈彼女〉の住所を知れるという事態を招いていた。
しかもよりによって、女性を拉致してレイプ動画を撮って荒稼ぎしている連中と知り合いの集団に……である。
『ここが田名部麻友の実家の住所だ。もう引退して一年だから今は27才か……今は一般人だから、本人のセキュリティーも〈並〉だろうな』
『他のマンションとかに住んでなきゃイイけどな。まあ、行ってみてのお楽しみってヤツさ』
芸能界を引退したからといって、そのまま実家に戻って暮らす保証はない。
本来ならば相当な金額になるであろう情報料は、DVDの売り上げの三割を渡す事で収まった。
『え!?あのまゆまゆ≠姦っちゃうんですか?』
『オゥよ。あの100点満点のケツを姦ってやるのよぉ』
『ぼ、ボク写真集買ってましたよ?あのまゆまゆをボクが……へへへへッ』
夏美を凌辱しても、まだ何処か吹っ切れていなかった小心者の三人組も、次のターゲットが田名部麻友だと聞いて俄然ヤル気を漲らせていた。
〈まゆまゆ〉の愛称で親しまれた田名部麻友。
13才でアイドルデビューしてから常にトップクラスの人気を保ち続け、そしてアイドル卒業・女優転向から引退するまでスキャンダルなど一度もなかった彼女は、何かと騒ぎを起こす他の有象無象とは意識からして次元が違っていた。
とは言え、やはり人の好みは千差万別。
麻友が好きだと言った者は高橋・佐々木・伊藤だけで、他の奴らは魅力的な《あの尻》を姦してやりたいという理由だけで推しているに過ぎない。
『オイ、出てきたぞ』
どこにでもありそうな住宅地の、ごくありきたりな二階建ての家からターゲットは出てきた。
住宅地の隅っこに設置されているゴミの収拾箱に、二つのゴミ袋を両手で持ってトコトコと歩いていく。
黒縁のメガネを掛けているが、やはり田名部麻友である事は隠せない。
白いTシャツに青いジーンズというシンプルな衣服だったが、そのラフな恰好だからと言うべきか、一際肉厚な尻がやたらと目立っていた。
『へへへッ…美味しそうなお尻は健在だねえ。もうおチンチンが勃ってきちゃった』
『でも相変わらず顔は50点どまりだな。確かにケツだけは認めるけどよ』
二台の車の中で繰り広げられている悍ましきやり取りに、麻友が気づくはずはない。
肩に軽く掛かるセミロングの黒髪はツヤツヤと輝き、やや垂れ目ながらもパッチリとした瞳は幼くもある。
少し整え過ぎな眉にアヒル口っぽい唇が微妙にアンバランスな印象を与えるその顔立ちは、確かに男共の好みの分かれる顔だ。
軽自動車は静かに進む。
その住宅地はコの字の道路に家々が並び、その外側の角の家に、麻友は入っていった。
真っ白な外壁の二階建ての家の前にはカーポートが備わり、真っ黒な高級車と白のSUVが並ぶ。
あと少しすれば両親が揃って高級車で出掛け、あの家には麻友だけが残る事となるのは既に調べてある。
そしてお昼近くになると、一人で買い物に出掛ける事も……。