悪党達の末路-2
未だ夕方の早い時間帯なので行き交う人達は多い。付近に勤めている会社員達は、源蔵のお見送りに見慣れている為か関心を示さないが中には足を止め何事かと源蔵達を見ている人達もまばらだがいた。源蔵はふと、
【住宅街はかなり遠いのに、ここまで来たのか。】
【ウォーキングってやつか?】
と近くを通る軽装な運動着に身を包んだ70代前後の3人の男達を見る。喋りながら源蔵の車に近づいて来る。源蔵は、
【俺もあの位の歳になれば、やりたくなるのかな。】
と思った時、その男達の1人が上着のポケットから拳銃の様な物を取り出し、
『政商、大原源蔵に天誅!』
と大声で叫び銃口を向けると黒川が素早く源蔵の前に立つ。すると叫んだ男の横の男が拳銃をいつの間にか取り出していて黒川の腹目掛けて発砲した。黒川は呻いて体を折ると最初に叫んだ男が小さな声で、
『お前を先に始末しないとな。』
と呟く。そして黒川の眉間に狙い澄まして発砲した。血飛沫を上げ黒川は倒れる。源蔵は、固まり動けなかったが何とか体を揺する様にして車の後部ドアを開ける。すると3人目の男が、
『社会の敵、大原源蔵を討つ!』
『天誅‼︎』
と大声で叫び、後部ドアに手を掛け中に入る。源蔵はガタガタ震え、
『誰の…誰のぉ、差し金だぁ!』
『金ならくれてやる、やめろ!』
『助けてくれ‼︎』
と喚き散らす。乗り込んだ男は平然と、
『あんた、調子に乗り過ぎた見たいだぞ。』
と言うと源蔵の眉間に発砲し源蔵は、
『ガハッ』
と血飛沫を上げ呻くと仰向けに倒れた。最初に叫んだ男が、
『みんな居なくなったぞ。』
と周りを見る。周りの通行人達と大原の社員達は蜘蛛の子を散らす様に逃げて行き、運転手は源蔵が後部座席に乗り込んだ途端運転席から飛び出した。最初に発砲した男が、
『自首する予定だろ。』
『誰か通報するのを待つか?』
と聞く。源蔵を撃った男が、
『俺が警察呼ぶわ。』
と言い、源蔵の背広を漁りスマホを見つけると慣れた手つきで源蔵の指をスマホに押し当てる。タッチパネルで通話先に掛けて相手が出ると、
『今、大原ビルディングの前で大原源蔵会長が撃たれました。早く来て下さい。』
『ワシですか?』
『大原会長を撃ったもんですわ。』
と平然と普通に話す。他の2人は路肩に座り、
『この歳でチャカ、体にこたえるで。』
『ほんまやな。』
などと会話している。少し経つと遠巻きに野次馬の輪が出来た頃、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
大原源蔵射殺のニュースが速報で流れる。地検内は、このニュースに大騒ぎになった。美鈴も部下に知らされ驚き、テレビに見入る。美鈴は、
【誰の仕業かしら?】
【大原だと敵が多過ぎて、絞れないかも。】
【まさか、山海がやったんじゃ…】
と憶測は尽きない。大原の公判は、当然無くなった。山海の大原からの贈収賄の公判も山海本人が罪を全面的に認めてすぐに結審の予定だった。これまでの贈収賄の証拠品を提供し、数々の贈収賄に関与していたと認めていたので大原からの物だけを否定する意味も無かったからだった。
数日後、山海の秘書北島を訪ねて証人の必要が無くなった事と今までの協力のお礼を言った。北島が、証拠は無いがと前置きして大原銃殺事件には山海が関与しているかも知れないと言う。そのきっかけは、息子が狙われた事では無いかとの事だった。
山海の息子は愛人の子で、唯一の息子らしく溺愛していたらしい。息子は愛人の子と言うのも有り、山海の後継者として政治家に成る気は無かったが山海がどうしてもと頼んだとの事だった。美鈴は、
【その可能性は有るわ。】
【溺愛していた息子を守る為に、過去の贈収賄の大量の証拠品を気前良く提供した。】
【息子への襲撃が、山海の方針を変えさせたのかも。】
と頷く部分も有った。美鈴が何かその推測を裏付ける情報が有るのか聞くと北島は、昔山海の秘書をしていた松方と言う男かいると語った。秘書時代は、専ら汚れ仕事専門でやって来たが多額の使途不明の政治献金が問題になった時に、自ら勝手に行ったとして秘書を辞めたと言う。
事実は、山海を庇う為の物だったので億単位の金を退職金代わりに貰い円満に辞めたらしい。その後は何とか研究所とか言う怪しげな会社を立ち上げ、総会屋まがいの事や政治家の汚れ仕事を請け負いそこそこ繁盛しているとの事だった。
山海もたまに仕事を依頼していたらしい。その松方が山海の弁護士の1人と大原銃殺事件前に会っていたらしい。その後、松方は有る右翼団体を訪れたとの事だ。その右翼団体は、実際は広域暴力団の下部組織で団体のトップ菅原は山海の幼馴染との事だ。その右翼団体の構成員が今回の事件を起こしたと教えてくれた。
北島が言うには、政治家の息子と言う事でイジメられていた山海を菅原は庇ってやっていたらしい。後に菅原が何度か逮捕され意外に軽い刑罰になったのも山海が手を回したと言う。2、3度山海と菅原の秘密裏の会食に立ち合った事が有るがとても仲が良く小さい頃のあだ名で呼び合っていたと教えてくれた。
美鈴が特捜部に戻ると知り合いの刑事が訪ねて来た。山海から得た駅再開発の証拠品からの捜査状況などや山海の様子を教えてくれるのだ。そんな事はしなくて良いのだが、山海に襲撃されて間もなく山海への面会を要請した事で、もう関係無いと情報を出さないと言うのも憚られた様だ。
捜査は順調に進んでいるらしい。何せ贈賄側の山海が事細かく供述しているのが大きいと言う。山海は、最近は何故かご機嫌らしい。洗いざらい全て話してくれるらしい。贈収賄の出処がはっきりしない物は大原源蔵からの資金らしく、大原が死亡して気兼ねなく話している様だ。