怖がりな母子-1
近年は夏になると、テレビの地上波で心霊番組を放送する事もほとんど無くなりましたが、私の子供の頃といえば、お盆の季節になると、決まって心霊番組の特集が組まれて居ました。私は怖がりでありながら、心霊番組が大好きでよく見て居ました。親父や兄はあまりそういうのは興味無かったんですが、母は私と同じように、怖がりながらも心霊番組が大好きで、二人で怖がりながら見ていたのを覚えて居ます。
そんなある年の夏、何時もは家族で親父の実家や、母の実家に帰省していましたが、この年は、兄は塾の夏期講習があり、父も兄を一人にする訳にはいかず家に残り、当時小学4年生だった私は、当時36歳だった母と二人で、母の実家がある茨城県の海沿いの某所に帰省しました。
母の家は、祖父は母が小さい頃に亡くなり、祖母が一人で住んで居ましたが、祖母は病院で、今でいうヘルパーの仕事をしていて、日中はほとんど家に居ませんでした。母は、私がテレビも面白いのがやってなくて、退屈そうにしていたのに気づき、私に声を掛けました。
「どうする!?退屈だったら海に泳ぎに行く?」
「エェェ!?泳げないからいいよ」
「じゃあ、散歩に行こうか」
「うん」
私と母は、こうして近所をブラブラ散歩する事にしました。時間はまだ9時30分過ぎぐらいだったと思います。私は半袖のTシャツに半ズボン、母も上は巨乳が丸分かりな白のTシャツと、母の巨尻がピッタリ張り付いたジーンズ姿で出掛けました。坂道を下って行くと海に出るのですが、そちらは何度も行っているので、私達は脇道を通り、山の方に向かいました。四十分ぐらい歩いて行くと、神社が見えてきました。
「こんな所に神社があるんだねぇ・・・お母さん、行った事あるの?」
「ううん、お婆ちゃんがここに引っ越して来たのは、あなたが生まれた年だったし、私もこっちの方を歩くのは今日が初めてだわ」
私と母は、そんな会話をしながら神社に続く階段を上ると、屋台は数件ありましたが、まだ時間的に早いようで、何処もやっては居ませんでした。人の姿も全くなく、寂れた神社だなぁと思ったのを覚えて居ます。私達は境内に入り、神社でお参りをして帰ろうかと思った時、私は神社の裏側に、お化け屋敷と書かれた看板を見付けました。
「お母さん、向こうにお化け屋敷があるよ」
「エッ!?あら、本当ねぇ。でもまだ時間早いし、お化け屋敷もやってないんじゃないかしらぁ?」
私は、そう言う母の手を引っ張り、いいから行ってみようと言うと、
「ウフフ、怖がりのくせに無理しちゃって」
「こ、怖がりじゃないよ」
私は母にからかわれ、少しムッとしながらお化け屋敷に近付きました。骸骨や唐傘お化け、ろくろ首や幽霊のイラストと共に、お化け屋敷と書かれた布製の横断幕と深緑色をしたシートで周りを囲った大型の仮設テントのような作りでした。私は内心これなら私でも大丈夫そうだと思い安堵すると、自分に言い聞かせるように、
「遊園地で見たより何かボロいし、あんまり怖くなさそうだよね?」
「そりゃあねぇ・・・手作りっぽいし。見て、やっぱりまだやってないみたいよ」
母の言う通り、案の定お化け屋敷はまだやって無かったのですが、その周りで4人のおじさん達が、椅子に座りタバコを吹かしながら雑談をして居ました。私と母が近づいた事で、おじさん達の視線が私達に向けられましたが、どうも母の胸を凝視しているように私には見えました。私も改めて母を見てみると、薄っすらかいた汗がTシャツ越しに、母のピンクのブラが微かに透けて居ましたが、母はそれに気づいて居ないようでした。母はおじさん達に確認するかのように、
「あのぅ・・・まだお化け屋敷はやってないんですよねぇ?」
「エエ、日中は暑いからねぇ・・・18時30分から始めるんだよ」
ねじり鉢巻きをした体格の良いおじさんがそう母に教えると、
「そうですか・・・じゃあ、帰ろうか?」
「うん」
私達がおじさん達に背を向けると、おじさん達のヒソヒソ話が聞こえましたが、
「アッ、奥さん待って。奥さんは、地元の人じゃないんでしょう?」
ハゲ頭のちょっと厳つい顔をしたおじさんが、そう言って母に声を掛けました。ハゲ頭のおじさんの手には長髪のカツラが握られていて、私は思わずそのギャップにクスリと笑ましたが、母はその風貌に一瞬驚いたのか、
「エッ!?アッ、ハイ。実家に帰省中で・・・」
「じゃあ、今みんなとも話したんだけど、お化け屋敷の予行練習を兼ねて、見学していくかね?」
「良いんですか?」
『もちろん』
四人のおじさん達が口を揃えて許可してくれた事で、私は大いに喜んだのを覚えて居ます。おじさん達はお化け屋敷の準備をするからと、深緑色した仮設テントの中に入って行きました。私はワクワクしながら母に話し掛け、
「どんなお化け屋敷だろうね?遊園地のより怖いかなぁ?」
私が母にそう尋ねると、母は苦笑しながら、
「フフフ、遊園地のお化け屋敷と比べたら可哀想よ」
私はそれもそうだなぁと納得し、準備が終わるのを母と待って居ました。しばらくすると、眼鏡を掛けた浴衣姿のおじさんが中から現われ、
「お待たせ。準備が終わったから、中にどうぞ」
「ありがとうございます」
母は眼鏡のおじさんに頭を下げると、眼鏡のおじさんは母に懐中電灯を手渡し、母は私の手を引きながらお化け屋敷の中に入りました。定番のおどろおどろしい曲がなり響く中、スピーカーから不気味な声が流れ始めました。