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妻を他人に
【熟女/人妻 官能小説】

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自慰-4

  *

 もうひとつ良いことがあった。身を持ち崩すゆきを遠巻きに見てひそかに案じてくれていた入学当初からの友人が、この頃になると、ぽつりぽつりと戻ってきてくれたのだ。地道な努力を見てくれていた友人の存在は、別にそれが目的ではなくとも、やはり嬉しい。

 しかし友人たちはいいのだろうか。悪い噂しかない自分と付き合うことで、品行方正な友人たちに迷惑をかけてしまうのが、ゆきは心配だった。

「『メルヘンビッチ』なんかと付き合ってると、みんなも評判落とすよ?」
「『メンヘラビッチ』ね」
「そうそれ! メンヘラビッチ!」
「あんた、そういうとこで間違うあたり相変わらずあざといよねぇ」
「ほんとほんと。ちょっと可愛く間違えちゃって」
「わざとじゃないって! しかも相変わらずってなに?!」
「あはは、冗談冗談」
「で、いいの? メンヘラビッチだよ? 私」
「気にしてないよ」
「そうなの?」
「言ってるのは一部の女子だけだし」
「いろんな男の人と遊んでるって思われてるんでしょ?」
「それも一部だけ。私たちは信じてないよ」
「そうなの?」
「遊んでるの?」
「遊んでないよ!」
「そうでしょう? そんなパンパンに膨らんだおっさんバッグ持って遊べないもんね」
「あはは」
「最近のゆき見てたらわかるよ。私嬉しかった」
「うんうん。何言っても上の空だった去年の秋とは大違い」
「ありがとう。でもその頃Eさんと浮気してたのは本当だよ?」
「うんうん。あれはよくなかったよねー」
「うん」
「でも色々事情があったんでしょう?」
「うーん……」
「楓さんが言ってた。自分やEさん、Dさんにも悪いところがあったって。あれは仕方ないことだったって」
「そうなんだ」
「ゆきのこと恨んでないしみんなもあまりゆきのこと悪く思うのはやめてほしいって、今でもときどき言ってるんだよ」

 知らぬところで楓はゆきの名誉回復を図ってくれていた。

「楓さんだけじゃないよ」
「?」
「Dさんもゆきに悪いことしたって……。自分勝手でゆきの気持ちを考えてなかったって」
「振られて当然なんだって懺悔してた」
「ははは。振った私の方がダメージ受けてたけどね」
「でもDさんもあれから誰とも付き合ってないんだよ」
「そうなの? いつもみんなに囲まれてて相変わらず楽しそうに過ごしてるなって思って見てたけど」
「それ見て傷ついた?」
「うふふ。別れた直後はね。もう平気だよ」
「きっとDさん、ゆきとより戻したいって思ってるよ」
「そんなー」
「あまり多くは語らないけど浮気されたのにゆきのこと全然悪く言わないし、むしろかばうようなこと言っちゃって」
「……」
「あれ? そういえば楓さんもおかしいよね。彼氏寝取られたのに……。あんたなんで楓さんに嫌われてないの?」
「いや、それはちょっと……」
「おかしくない?」
「私に言われても……なんでだろう。あはは……」

 話が危険なほうへ転がり始めたので慌てて話題を変え、事なきを得た。
 ともあれ、一部の友だちは戻ってきてくれた。楓の言葉にも救われたし、Dの中で自分がそれなりの存在であったらしいこともまた、ゆきの自尊心のいくばくかを満たしてくれた。

「で、どうなの?」
「何が?」
「何がって、Dさんとやり直しちゃえば?」
「うーん、考えたこともないからわかんないよ」
「そっか、それもそうだよね」
「そういうのは、今はいいかな……」

 アイスティーの氷をカランとかき混ぜ、虚空を見つめるゆき。脳裏に去来するのは、最近例の喫茶店で付きまとわれている男の存在だった。
 ゆきのお気に入り空間に土足で踏み込んできた男。普通なら迷惑男で終わるはずなのになぜか少し気になっている。もちろん一切相手にしていないしそのつもりもないが、今日は来ているだろうかと毎回探してしまう自分もいる。それは会いたくないからだと考えていたのだが、ある日姿が見えなくて少し残念な気持ちになっている自分に気がついた。愕然とした。あんな男、学内でゆきに言い寄ってくるホストのなり損ない男子と何が違うというのだ。

「ん? なにゆき? ひょっとして今気になってる人でもいるの?」
 なんとカンのいい友人だろう。なぜ今の会話だけでそうなるのだ。
「え? そ、そんなことないよ。なに? 急に……」
「分かりやす! おほほ。へぇ、そうなんだー!」
 友人たちの目がキラキラ輝きだした。ひょっとしてカマをかけられ、それにまんまと引っかかった?
「なになに? 学校の人じゃないよね? あ、わかった! バイト先だ」
「……あの、えと……」
 あんな男と噂になっては、それこそ評判がた落ちだ。
「ふーん。私、男なんて興味ありませーんみたいな振りして、ちゃっかりやることやってるんだー」
「ちょっと! まだ何も、そういうんじゃないから!」
「まだ? まだ付き合ってはないけどなんとなくいい感じってとこかな?」
「全然違うし! いい感じどころかこっちはいい迷惑で……」
「やっぱり誰かいるんだー」
 しまった。
「耳まで真っ赤にして可愛い!」
「な、なんにもないから!」
「そういう初心なりアクション変わってないよねー。安心した! ふふふー」
「もう……!」


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