家族旅行での出来事 同窓会タイム 2-4
3人は香澄の指さす方を見た。そして何度か振り返った。
「…………?」
「えっ?なに?」
不思議そうな声を上げたのは史恵だった。
香澄は笑いながら史恵に向かって指を出し、史恵の視線を誘導した。
「ほら、この感じ。階段の先にあるこの廊下……。」
「…………。あっ、本当だ。」
綾乃が何かに気づいたようだった。
「ウソッ。本当だわ。」
「えっ?なに?何が本当だ、なんだよ。」
よくわからないといった顔の匠に、今度は綾乃が指で視線を誘導した。
「ほら、匠君。ここから……こう……ね?」
「香澄。よく気がついたわね。
わたし、自分の旅館なのに、今まで気づかなかったわ。」
史恵が感心した様に香澄に言った。
「なるほど。高校の廊下だ。」
「ね?ここから階段の方の感じ。
そっくりでしょ?」
「本当だわ。言われてみれば、階段の感じや壁や窓までそっくりじゃない。
ねえ香澄。いつ気づいたの?」
「さっき、夫と屋上に上がる時よ。
ほら、床が汚れてるって……。」
「あ、なるほど。
えっ?じゃあ、あの時、香澄は高校時代に戻ったつもりで?」
「実はそうなの。
夫が、まるで学校の廊下みたいだなって……。」
「それで匠君を思い出して、この辺りでしちゃったってこと?」
「まあ、簡単に言えばそういうことね。」
史恵は綾乃と匠の方を見ながらゆっくりと言った。
「綾乃。これだったら……。」
「ええ。わたしはしっかり戻れそうな気がするわ。
だって、休み時間、史恵とよく話をしていた階段の踊り場によく似ているもの。」
「ああ。ボクもそう思う。
これならボクも……。目隠しなんかする必要もないさ。」
匠と綾乃は互いの顔を見合いながら小さく頷いた。
「じゃあ、綾乃もあの頃みたいに、
今みたいに、匠君、なんて、甘えた声で呼ぶんじゃなくって、
男を見下す感じになってみて。
わたしたちよりもはるかにませたお姉さんタイプ。」
史恵に言われて綾乃も負けじと言い返した。
「じゃあ、史恵はそんなわたしにいろいろと気を遣って、
わたしからいろいろと情報を聞きたがるセックス好きの女子高生。」
「あら。わたしのことをセックス好きの女子高生って言う綾乃さんは、
セックス好きの小学生だったんでしょ?」
史恵に言われた綾乃は笑顔に戻りながら、今度は香澄をからかうように言った。
「それで、香澄は匠君にぞっこんの夢見る乙女。
まだセックス初心者の文学少女。」
「ほらね?香澄。
あなたの高校の頃のイメージ。綾乃も同じこと言ったでしょ?」
「もう、二人とも面白がって……。」
綾乃の顔に笑顔が戻ったことで、史恵も香澄も、そして匠も笑顔になった。
綾乃がさっそく高校時代よろしく、みんなをリードし始めた。
「じゃあ、さっそく高校時代に戻るわよ。
え〜と。今日は日曜日。
そうだなあ。文化祭が終わった後の……。
で、わたしたちのクラスだけ片付けが終わってなくって……。
で、学校に来てみたら……。」
史恵がそのあとを引き取った。
「いるはずの担任はまだ来ていない。
なぜかしら、クラスメイトも誰も登校していない。」
綾乃は史恵の顔を見ながらその先を続けた。
「例のところのカギが壊れているのを知っているわたしたちは、
こっそりと学校に忍び込んで……。
うん。香澄と匠がまだ来ていないから、わたしたちは……。
ごみ捨てにでも行ってようかしら。
で、遅れてきた匠と香澄は、誰もいないのをいいことに……。」
「あの階段のところで……。」
「そう、あの階段のところで始めちゃうの……。」
「で、そこにわたしたちが脅かそうと思って登場すると……。」
「匠君豹変。」
「3人の女子高生を相手に、いきなり牙をむく、
巨大ペニスをもつ男子高校生……。」
「3人のか弱き女子高生の運命やいかに。」
「あのさ。なんか、ボクが悪者のイメージなんだけど。」
「もちろんそうよ。女子高生3人を相手に不純異性交遊ですもん。」
「先生に見つかったら退学ものよね。」
「そ。だからみんな、声は潜めてね。」
「だけど、そのシチュエーションで、全員裸っていうのはおかしくない?」
史恵が意味ありげに言った。
「そこまでやる?」
史恵の意図を察したのか、綾乃が史恵に問いかける。
「だって、その方がリアリティがあるでしょ?
あるわよ、制服。」
「えっ?まさか?」
「あの頃のはさすがにないけれどね。
コスプレ用よ。でも、あの制服を再現した特注品。
2着あるわ。
綾乃。着てみない?」
綾乃は黙って大きく頷いた。
「もう一着は?」
「それはもちろんわたしよ。」
史恵は自分を指さして言った。
「じゃあ、わたしはどうなるの?」
香澄が異を唱えると、史恵はあっさりと言った。
「だって、あなたはもう匠君に脱がされて始めちゃってるのよ。
日曜日の校舎でしょ?それなのに全裸?」
「香澄だったら全裸になっちゃうんじゃない?
全裸で旅館の中を歩き回るくらいだもの……。」
「じゃあ、匠君は?」
「もちろん、全裸よ。
だって、女子高生を襲う巨大ペニス……」
「そ。そこに制服を着たわたしたちが来るっていうわけ。」
「で、匠君が君子豹変。
わたしたちの制服を引き裂いて、突然……。」
「匠君子豹変……。」
「あのさあ……。」
異を唱えようとする匠を無視して、綾乃は強い口調で言った。
「じゃあ、香澄。匠。あなたたちは、さっそくあっちの階段へ行って。
わたし、史恵と一緒に制服取ってくるから。
あ、始めちゃってていいんだからね。
一番いいところで登場して、邪魔してあげるから。」
そう言って綾乃は史恵と手をつないで廊下を走っていった。