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【学園物 恋愛小説】

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想[8]-1

「あっ…」
「あ…どうも、こんにちは」
私は軽く会釈をして、彼女さんに駆け寄った。
「どうしたの?誰か待ってるの?」
誰かって、名屋君に決まってるよね。と、言ってから気付く所が要領悪い。
「って、名屋君だよね。ちょっと待ってて?私、探してくるから!」
「ううん、鋼吾じゃないのっ!!」
引き返そうとした私の腕を彼女さんは引っ張った。
「…なんてのは嘘。鋼吾に会いにきた」
悪戯っ子のように無邪気に笑う彼女さんは、本当に可愛くて、劣等感を覚えてしまった。
「もう一度、鋼吾に会いたくて…」
もう一度…?
「フラれてから一ヵ月も経ったのに、まだ忘れられないから」
…フラれた?
「…どういうこと?フラれたって。一年も付き合ってたのに…」
胸がざわつく。今すぐこの場から逃げたいような、そんな感じがする。
だけど私の心中とは裏腹に、彼女さんは少し困ったように笑い
「一年?そんなに長くないよ。8ヵ月。噂って恐いね」
と言った。
「…私たち、別れたんだよ。あの雨の日」
彼女さんの声のトーンは変わっていないものの、顔からは笑顔が消えている。その凛とした瞳から、私は目を反らすことが出来なかった。
「あの、雨の日…」
私に名屋君が傘を貸してくれたあの日…。
「どうして…」
どうして?考えたく無い、だけど。
「私の…せい…?」
器官が詰まっているかのように息ができず、無理矢理絞りだす声は小さく、また、震えていた。
「あなたの…せいかもしれない」
彼女さんの言葉がずんっと私に突き刺さる。
私が悪いんだ。あんな気持ちになって…ドキドキしたりして、バカみたい。人の幸せ壊しておいて、自分だけ傷付かないようにって…。
気付くと、私は深く頭を下げていた。
「…ごめんなさい!私のせいで…。私が、あそこで傘を受け取らなかったら。そしたらきっと、今だって…。許してもらわなくてもいいっ、でも、本当に、ごめんなさいっ!」
彼女さんの爪先を一心に見つめる。私の目から、ポタンと涙が落ち、アスファルトへ染み込んでいった。
「私…鋼吾のこと、引き摺り過ぎたみたい」
ボソッと彼女さんが呟いた。そして、私の肩がゆっくり持ち上げられる。
「謝る必要なんて無いよ。私、本当は今日、鋼吾にもう一回告白しようとしてたんけど、もうやめる」
彼女さんは鞄を肩に掛け直した。
「結果が見えちゃった。私、鋼吾のことスッパリ諦めるっ。そんで、違う人好きになる」
「彼女さん…」
「優衣。もう、彼女じゃないもん」
彼女さん、いや、優衣ちゃんはクスクス笑った。
「あ、ごめん…」
「ふふっ、謝んないでってば。さぁーて、帰ろうかなっ」
優衣ちゃんはくるりと回れ右をして、私に背を向けた。
「本当にいいの?言わなくても、後悔しないの?」
「しない。何でかな、あなたと話したらスッキリした。…本心は」
優衣ちゃんが振り返った。
「あなたに会うこと期待してたのかも。プライドみたいなもんかなぁ。取られたくない、なんてね…」
一瞬寂しそうな顔をしたかと思うと、すぐに可愛らしい笑顔に戻った。
「それ、どういう…」
「そういえば。鋼吾、気になる子がいるみたい。それでフラれたから」
優衣ちゃんはそう言うと、きびすを返して歩いていった。
小さくなる後ろ姿を見ながら、私の頭の中では「気になる人」と言った優衣ちゃんの声がリピートされていた。


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