ただのPBじゃない-9
元治は深くため息をつく。
「だがなー、こんな中途半端なトコで頓挫する訳にはいかないんだよ。あんなクソを野放しにし、好き勝手やられちゃ困るんだ。おまけにあんなクソ野郎が総理大臣なんかになったら世も末だ。その前に俺が息の根を止める。」
元治は華英を牽制しながらヘリコプターの方へゆっくりと近づく。
「諦めなさいよー。例えあなたが正義でも、人を殺したらただの犯罪者よ?」
「警察に任せて法でヤツを裁けってか??そんなのクソ喰らえだ。奴に復讐したら俺はどうなろうと構わない。それは愛子も同じだ。正義になんてなるつもりもない。」
その言葉を黙って聞いていたマギーは、ある違和感を覚えた。
(この2人は…本当に恋人同士なの…?)
そんな疑問がふと心に浮かんだ。
「だいたい警察なんか信じられるか!どうせ高島謙也に金を積まれて真実を捻じ曲げてしまうんだろ?警察は黒い。黒い手帳がお似合いだ。俺は警察を信じない。」
「3億円事件は、私も警察は腐ってると思った。でもそんな体質を消し去ろうって、今の警視総監は必死で戦ってる。私も同じ。あなたなら上原若菜を信じる心があるんじゃないの?」
「確かに上原若菜は信じられそうな人間だ。しかし奴だって殺人犯だ。復讐に殺人を選んだ人間には変わりない。それに…」
「それに?」
「お前だってそうだろう?未だに恩師を死に追いやった真犯人を追い続けている。真犯人を見つけたら、お前は法で裁くか?裁かないだろう。迷いなく引き金を引くはずだ。違うか?」
「そ、それは…。てか、何でそれを知ってるの?」
「さぁな。しかし自分の計画の邪魔になりそうな人間の事は一応調べておいた方がいいからな。」
「あら、私の事調べてくれたんだ。私がどのぐらい男にモテるかも調査済みよね?」
「…、まだ調べが足りなかったかな…。そう言う事実は一切耳にしなかったが…」
元治は華英を馬鹿にしたかのように口角を上げた。馬鹿にされた華英はゆっくりと左手の中指を元治に突き立てた。
「マジ殺す!」
「フフフ、おてんば娘は調査通りだ。でもお前の敵は俺じゃない。」
「ん?どーゆー事?」
元治は意味ありげな笑みを浮かべて、華英にとって衝撃的な言葉を口にした。
「お前の敵は俺の敵と同じだ。」
「え…?な、何がよ…?」
「だから、そーゆー事だよ。」
華英の心臓が大きく動く。動揺が見て取れる。そして次の瞬間、金槌で頭を叩かれたかのように一瞬、頭の中が真っ白にさせられた。
「お前の恩師の命を奪ったのが高島謙也だとしたら、お前は高島謙也を法で裁いて満足するか?しないだろう。お前は必ず高島謙也を殺すはずだ。殺す事以外、復讐には成り得ない事は、お前だってわかってる筈だ。違うか?」
元治の言葉に気が動転する華英。
「な…んですって…?」
言葉を失う華英。マギーはそれが事実かどうか疑う。
(ホントの話?それとも、嘘…?どっち…?)
マギーは元治の表情を伺っていた。