家族旅行での出来事 夫婦交換の余韻-1
香澄が目覚めると、そこには史恵の姿も哲郎の姿もなかった。
部屋の中もきちんと片付いており、壁も普通の壁に戻っていた。
4人の体液や汗で汚れていたはずの床も、きれいになっている、
香澄が目を覚ますかなり前に史恵たちは起きてきて、
香澄たちを起こさないように部屋を片付けたのだろう。
(さすがに客相手の商売をしているだけあるわ。
あんなに遅くまで、あんなに激しかったのに……。)
香澄は、哲郎と史恵の、旅館の主と女将としての、仕事人としての責任感に感心した。
横を見ると、夫の雅和はまだ起きる様子はなかった。
昨晩、史恵と香澄に散々搾り取られたペニスは、
すっかりしぼんで、朝立ちの気配もない。
(そうだ。真奈美ちゃんはどうしたかしら。)
香澄はそっと立ち上がり、隣の部屋の扉のそばに行き、聞き耳を立てた。
(まだ静かだわ。二人とも、まだ寝ているのかしら。)
夜中に香澄が覗いた時には、
真奈美は孝志のペニスをしっかりと握ったまま、寝息を立てていた。
香澄はまだ寝ているであろう真奈美たちを起こさないように、そっと扉を開けた。
真奈美は、まだ孝志のペニスをしっかりと握ったまま、眠っている。
孝志の方も、真奈美の乳房に手を置き。ぐっすり眠っているようだった。
香澄は部屋に戻って時計を見る。
もうすでに8時近かった。
中庭に面したガラス戸のカーテンを開けると、朝日が差し込んできた。
あれほど激しかった雨は既に止んでいるようだった。
部屋に差し込む朝日に刺激を受けたのか、雅和が目を覚ました。
「なんだ。もう起きてたのか。」
「ええ。さっき、目が覚めたわ。史恵たちは戻ったみたい。」
「ああ。だいぶ前に、部屋を片付けて、戻っていったよ。」
「あなた、起きてたの?」
「ああ。ボクは割と目ざとい方だからね。
でも、ボクらを起こさないように、これだけ片付けるなんて、
さすがに史恵さんも哲郎さんも、プロだね。」
香澄は夫が、さん付けで二人を呼んだことに気づいた。
(そうよね。狂乱の夫婦交換は終わったんだもの……。
夫らしい、けじめだわ。)
「そろそろ真奈美を起こすか?」
「よく寝ているわ。まだそっとしておいてあげましょ。」
「真央ちゃんたちは?」
「さあ。まだ寝ているんじゃないかしら。
でも、さすがに若い娘さんが寝ている部屋は覗けないもの。」
「じゃあ、ボクが見てこようか。」
「ねえ、あなた。わたしが言っている意味、分かってる?」
「だって、どうせ3人とも裸だろ?
3人の服は、ほら、そこに畳んである。」
香澄が夫の指さす方を見ると、
確かにそこには真央と利彦、雄大が昨日着ていた服が丁寧に畳まれて置いてあった。
「それも史恵さんさ。」
そう言って雅和は立ち上がり、
真央たちが寝ているはずの部屋の扉を開けようとした。
「ちょ、ちょっと……。」
香澄が夫を止めようとすると、部屋の扉が開いた。
真央だった。
「あ、おはようございます。」
「あ、真央ちゃん。起こしちゃった?」
「いえ。さっき、起きました。」
「あ、香澄さん。雅和さん。おはようございます。」
「おはようございます。」
真央の後ろから顔を出したのは利彦と雄大だった。
「あら。3人とも起きていたのね。」
「はい。30分くらい前に……。」
「オレは、いや、ボクは起こされたんですよ。
真央ちゃんと利彦の声で。
この2人、朝っぱらからもう一回戦終了なんですよ。」
「ごめんなさい。
雄大さんを起こさないように、
わたし、声、出さないように我慢してたんですけど、
あんまり気持ちがよかったから、つい……。」
「ボクもキスして口をふさいだんだけど、真央ちゃん、一段と良かったみたいで。」
「あれだけ夜中までやっておいて、お前、よく、朝から勃起したな。」
「それほど真央ちゃんの身体が素晴らしいってことさ。」
「せめて朝飯が終わるまで待てなかったのかよ。」
「いいじゃないか。仕事に戻る前に、
もう一度、真央ちゃんの身体、味わいたかったんだから。」
「お前だけ、ずるいんだよ。」
「もっと早く目を覚まさないお前が悪いんだよ。」
「二人とも、けんかしないで。まだチャンスはあると思うわ。」
「そうそう。電車が動かない限りは、真央ちゃんたちはここに缶詰めだもんな。」
「でも、オレたちには仕事があるじゃないか。」
「だって、今日のお客様は本村様だろ?
だったら、ほとんどおもてなしじゃないか。
普段の仕事とはわけが違う。」
「そっか。場合によっては……。」
「本村様?」
「あ、ええ。今日、予定を早めて午前中にこちらに到着されるお客様です。」
「本村、様……。」
香澄はその名前をどこかで聞いた気がしていた。
(本村……。本村……。??!!??本村、匠????)
忘れるわけがなかった。
本村 匠。
真奈美の、高校の時の同級生、真奈美の初体験の相手だった。
(今日の午前中に、予定を早めて到着するのは……匠君……?)
しかし、そんな偶然があるだろうか。
昨日、真奈美が看板を見つけ、
たまたま訪れたこの旅館の女将は、真奈美の高校時代の親友、史恵だった。
それだけでもあり得ないような奇跡なのに、
そこに客として訪れるのが、あの匠だなんて。
(でも、もしもそうだとしたら……。)
香澄の心臓は高鳴り始めた。