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蜜戯
【SM 官能小説】

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蜜戯-14

とても長い交わりの時間が過ぎていったような気がする。わたしの肉襞にいだかれた彼のものは、手で触れていたときより大きく、長く、わたしの中を深くつらぬいているように感じた。
彼はとても静かに、優しく、敬虔に、そしてとても深くわたしをいたわるように腰を蠢かした。わたしは彼の肉体の優しさに巻き込まれ、揺り上げられる。それなのに自分の体が深い海の底に堕ちていくような気がした。わたしは深海の底で癒される体をもっと彼のものとして感じたかった。彼のものとして、もっとわたしを高めて欲しかった。そのためにわたしは彼に虐げられ、痛めつけられ、彼に息の根を止めて欲しいとさえ願っていた。
そのとき、彼が自慰をしたときの美しい指が脳裏をすっとよぎっていった。何も汚したことのない、誰も傷つけたことのない純潔の指をわたしだけのものにしたかった。
首を……首を絞めて欲しいわ……あなたの指で……。
なぜ、自分がそんなことを言ったのかわからなかった。彼とずっとこのままでいたい、彼をわたしだけの永遠のものにしたいという欲望がわたしにそう言わせたのかもしれない。
わたしは目を閉じた。彼の身体の重みがふっと消え、なめらかな指の感触だけが首筋に伝わってくる。少しずつ首を絞められる苦しさは、鋭く、甘美な情感でわたしの肉奥を掻きたてた。含んだ彼のものが肉奥を貫き、わたしの体を内側から破裂させるように大きく膨らんでくる。そのとき肉襞の懐かしい収縮と痙攣が始まり、わたしの意識は遠くなっていく……。


ふと気がつくと、庭からコオロギの鳴き声が聞こえてくる。その虫の音は無為の時間を淡々と刻んでいた。いつのまにか陽が沈み、庭は漆黒の闇に包まれていた。
すべては夢だったのか。ワインで酔ったわたしはベッドで横になったまま、いつのまにか眠り込んでいたらしい。いったいどこまでが現実で、どこからが夢なのかわからなかった。
「とてもよく眠られていましたね。そろそろ帰りますね。簡単な食事を用意していますから」と言いながら、彼は帰る準備をしていた。彼の衣服の乱れもなく、彼が裸でわたしを抱いた形跡は何も見られなかった。
「まだ、いいでしょう。もう少しわたしといっしょにいてちょうだい……」わたしは夢の余韻に甘えるように言った。
 彼はベッドの縁に腰を降ろし、わたしの傍に寄り添うと、だだをこねる幼子をあやすように髪を撫でてくれた。わたしは彼の手を取り、指に触れ、その輪郭を確かめるようになぞった。その温かさは夢でわたしが体に含んだものと同じだった。

彼は思い出したように帰り支度をしたバッグから一枚の写真を取り出すと、わたしの前に差し出した。
「ぼくが失った恋人です……」
 突然、わたしの前に差し出された写真。その写真を手にしたわたしの指に湧き上がるような震えが襲った。心臓の烈しい鼓動が全身に伝わってくる。
鞭を手にした黒い下着姿の女の足元に媚びるように跪き、首輪をした全裸の若い男。色褪せた写真の中の憧憬は夫が持っていたあのときの古い写真と人物のポーズも背景も、すべてが同じだった。ただ、違うのは写真の中の若い男があのときの写真の中の夫ではなく、目の前の彼であること。そして背中だけを見せていた女が振り向き、女の顔がはっきりと写っていたことだった。 
その女の顔を見た瞬間、胸が張り裂けるくらいわたしの中のものが肥大し、突き破ってくるような感覚に胸奥が烈しく痛んだ。

―― その女は、まぎれもなく遠い過去のわたし自身だった……。

いったいどういうことなの。わたしが焼き捨てた写真の中の男は、夫ではなくて彼だったのか、それとも彼そのものが夫だったのか、それにわたしは、男性に対して鞭を手にするような女だったのか。戸惑いと混乱が眩暈となり、ひたひたと襲ってくる。
そもそもそんなことは現実にありえなかった……ありえるはずがなかった。なぜなら、過去のわたしを、現在の彼が恋人にできるはずなどないのだから。ましてや亡くなった夫が、わたしが忘れ去った夫が、目の前の彼であるなんて。


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