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蜜戯
【SM 官能小説】

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蜜戯-11

 夏の終わりの空に薄墨色の低い雲が垂れ込めている。風はなく、朝から小さな雨粒がぽつぽつと降っていた。いつもの朝の散歩はできなかった。昨日もこんな雨が降っていた。雨が恨めしかった。もちろんそれは、彼と寄り添っていっしょに散歩ができないからだ。
 彼とふたりだけの秘密の関係を持てたことがわたしを変えていったことはまちがいなかった。彼と共有する時間が懐かしい悦びを芽生えさせ、心地よい快感となっていたが、そのときのわたしはどうかしていたのかもしれない。夕方、久しぶりに口にした冷えたワインがわたしの欲情を饒舌にしたことは間違いなかった。ワインは姪の舞子がわたしの誕生日に送ってくれたものだった。
帰り支度をする彼の姿を見ていたとき、少し酔ったわたしの火照った身体の奥が微かに疼いた。
「少し飲み過ぎのようですね。お顔が少し赤いですよ」と彼は笑った。
「まだ、ここにいて欲しいの。今夜は、あなたをもっとわたしのものにしたいわ……」
ほんとうにそんな言葉を彼に向って口にすることができるとは自分でも思わなかった。わたしはどうしても彼が欲しかった。ふだんとは違う彼が……わたしのものとしてのすべての彼が。
「着ているものをすべてお脱ぎなさい」
わたしの強い口調に彼の表情に変化はなかった。むしろわたしの言葉をずっと予感していたようにさえ感じられた。
ふたりのあいだにわずかな沈黙の時間が流れ、少しずつ濃さを増していくのをわたしは肌で感じとった。彼は、これまで見たこともない奥深い瞳でわたしをじっと見つめ、小さく頷いた。
酔ったわたしの欲望はワインの香ばしい余韻で芳醇に、色濃く匂いたっていた。美しい指の先にある彼の肉体のすべてに触れてみたいという欲望が。

彼はわたしに言われるままにポロシャツの胸のボタンを外し、ズボンのベルトをゆるめ、下着を脱いでいく、どこか秘密めいた、いつもと違った優雅な指の動きにわたしは心を奪われるように魅了される。彼が纏っていたものが零れるように床にすべり落ち、澄んだ若い裸体があらわになっていく。
すべてを脱ぎ捨てた彼の姿は、いつもの日常から非日常の姿へ変わり、まるでこれまで彼を覆っていたベールが剥がれたように瑞々しかった。安楽椅子に座ったわたしは、全裸になった彼を目の前に立たせ、瑞々しい肉体のまぶしさに甘い眩暈を感じながら彼の身体に視線を注ぎ続けた。
部屋に射してくる黄昏の淡い光が、精緻に作られた彫像のような彼の裸体にまぶされ、肌も、輪郭も、突起も、翳りも、鮮明に浮き上がらせ、限りなく調和し、ひとつの風景としてわたしの瞳を癒した。
光は彼の身体の輪郭をなぞり、滑るように揺らめき、その光をたっぷりと吸い込んだ彼の若々しい肉体は、逆に老いたわたしをぼやけさせ、惨めにしていく。それでもわたしはその惨めさによって痛いくらいに心を研ぎ澄まされ、気のせいだと思うくらい肉奥の渇きを強く感じた。
彼の裸体を見るのは初めてだった。腕や胸郭、腹部、太腿まで慎ましやかに引き締まった肉体のどの部分もわたしの期待を裏切ることはなかった。桜色に染まった蕾のような乳首は今すぐにでも口に含んで甘く歯で噛みたいほど可憐で瑞々しかった。なめらかな肌をした下腹部の中心の陰毛は黒いというより淡く慈しみ深い翳りとなり、あまりにしなやかなペニスを浮き彫りにしている。いや、それは彼の性器でなく、完璧な肉体の造形になくてはならない一部だった。
彼の指先の香しい輝きは、黄昏の光とせめぎ合うように身体全体に拡がり、ペニスの先端まで染め上げている。ほどよい大きさの、形のいい、美しいペニスが野に咲く若草の茎のように揺れた。
彼はわたしに見られる恥ずかしさだけですでに感じているのか、ペニスに流れる血流が肉幹の中を滑るような音を奏でているような気がした。その肉の音を聞いたときわたしはとても嬉しくなった。
「もっとわたしの近くに来てくれないかしら……」と言うと、彼はその声に操られるようにわたしの目の前に歩み寄った。
わたしは安楽椅子に座ったまま杖の先で彼の胸肌に触れ、桜色の乳首をなぞるようにつついた。花の蕾のような小粒の乳首が可憐な悲鳴をあげたような気がした。杖の先はまるでわたしの手と同じように彼の肉体を感じとっていた。わたしは杖の先を操るように引き締まった腹部へ這わせ、陰毛を絡めながらペニスのまわりに円を描くようになぞった。


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