蜜戯-10
あっ……そこは、やめて……
そう言ったとき、すでに彼が手にした縄が下腹部を蛇行しながら縦によじれ、草むらを這い、腿のつけ根をくぐり抜け、陰部と尻の割れ目をぐっと引き締めた。
ああっ………あっ……
思わずわたしは嗚咽をこぼす。縄は陰部の肉唇を容赦なく縦に深く裂くように沈み、股間に喰い込み、渇いた陰唇を鋭く残酷に喰い締めた。
体の中から火照るような恥ずかしさが込みあげてくる。わたしは彼が縛った縄に身を浸しながら老いた肉体がどこかゆるぎのない狂わしい欲望へと変幻していくのを感じていた。それは、彼に縛られたことでもっと、もっと彼のものでありたいという純粋すぎる欲望だった。
裸よりも、きれいなミヅヨさんの姿があったのですね。ぼくはもっとあなたを好きになりそうです。そう言った彼の瞳に美しし愛おしい翳りを感じた。
もしかしたらわたしは、彼を愛さざるえない体になっているのかもしれないという思いが微かに脳裏をよぎる。彼の腕の中で縛られ、彼の腕の中に無防備に包まれことは、彼との、もっと深い交わりと濃厚な戯れにわたしを晒すことにほかならなかった。
キャンドルの灯りがわたしの心を煽るようにゆらゆらと揺れている。
彼はベッドの上に縛ったわたしを押し倒し、肩を抱き寄せた。指先でわたしの白髪を梳くように撫で、頬に触れ、十分に唇をほぐし、零れるように薄く開いた唇をなぞる。とても優しく、いたわるように。
触れてくる彼の指で、自然にわたしの頬がゆるみ、唇が自然にゆるんでくる。彼の指が唇をなぞり、唇のあいだに忍び込んでくる。やがて指先はわたしの舌の上で無邪気に戯れる。
滲んだ唾液が指に絡まると、甘い快感と息苦しさが胸をふさぎ、わたしは体の奥から悶えるように喘ぐ。彼の腕の中にすっぽりと包まれたわたしは、縛られた体をくねらせ、唇を窄（すぼ）ませると、彼の指をしゃぶり始めた。わたしはまるで赤子が母親の腕の中で乳首を求めるように彼の指を貪った。
彼の指の瑞々しさを唇に感じれば感じるほど、自分がとても惨めになる。自分の老いが身に染みてくる。きっとわたしの顔は化粧が剥げ、口紅はくすみ、唇の色褪せた縦縞の紋様の溝まで露わにしているかもしれない。わたしはその老いの恥辱に晒された唇の肉感だけを蠢かせ、尽きることなく醜く唇をゆがませる。
すっと彼の指が唇から抜かれたとき、それに代わるように彼の唇が重ねられてきた。しなやかな彼の腕がわたしを抱きしめた。わたしを縛った縄が絞まり、軋み、骨の関節が砕けるほど強く抱きしめられる。
わたしは、彼の身体の中に深く閉じ込められ、彼に唇を奪われていった。男に自分が奪われる甘い感覚……そんな遠い記憶が、まだ自分の中に残っていることが不思議だった。縛られたわたしの肉体は脆くなり、彼はわたしを縛ることによって、肉体を超えてわたしの心のすべてに触れてきた。合わさった互いの唇が愛おしく絡む。閉じたまぶたの裏に遠い記憶の憧憬が静かに見え隠れするような口づけだった。