スコーピオの女 情欲の章-4
「頼む!やめてくれ!麻耶とは別れるから」
柏木が悲痛な声で訴える。僕は緩み始めたロープに気づき周囲を見渡し、こっそりとほどく。僕がいる場所から上座に組長がおり、掛け軸と黒光りしたおそらく黒檀の木刀が二本飾られている。――二メートルか……。
一か八かダッシュで木刀を一本手に取った、と同時に組長も手早くもう一本を手に取った。
「オヤジっ!」
「てめえっ」
「静かにしろい。あんた。素人さんでしょ。それをどうする気だい」
あまりの迫力に足がすくむ。
「麻耶を離してもらえませんか」
僕は木刀を下段に構えた。
「あんた。なかなかいい構えするじゃねえか。その女とおめえさんはどんな関係だい?間夫か?」
「いえ。学生時代の友人で今日、偶然会っただけです」
「ちっ。全く関係ない素人さん連れてきちまったのかい」
ぎろりと三人組の手下を睨むと男たちは面目なさそうに頭を下げた。
「興ざめだな。よし。じゃ柏木。そこでその女とやれ。若いもんは使いもんになんねえ。いつも通りその女がヒーヒーいうとこわしらに見せたら勘弁してやろう」
僕が驚いてピクリと動くと喉元にひんやりとした黒檀の木刀が当たった。
「じっと見てな。これぐらいで勘弁してやろうっていうんだ」
黒いスーツの男が柏木を両脇から抱え裸の麻耶の前に投げ出した。柏木は麻耶と見つめ合っている。
「早くしねえか」
意を決したように柏木は土下座をし「できません!」と叫んだ。ダークグレーのジャケットを脱ぎ麻耶の身体にかけた。
「言う通りにしますから、勘弁してください」
「だから姦れと言ってるんだ」
柏木の隣に麻耶が並んで土下座をし、覚悟を決めた声で訴えかける。
「組長さん!彼はできないんです!」
「麻耶!やめろ!」
「あたし、あたし、彼には指一本触れられてません!」
鎮まりかえっていたいた座敷にざわめきがよみがえる。
「どういうことでえ。説明しろ、柏木」
諦めた表情で柏木は重い口を開いた。
「三年前の傷で俺あもう男としての機能は失われてるんです」
「まさか、俺をかばったときの傷か」
柏木はコクリと頷いた。
――三年前、組の抗争で組長が刺されそうになった時、柏木が身を挺しその刃を腹に受けた。その時の傷が元で勃起不全に至っているようだった。
「じゃあ……。リカの腹の子は……。おいっ!リカを呼んで来い!」
慌ただしく手下たちはリカを呼びに座敷を飛び出していった。
僕は修羅場がいったん落ち着いたので木刀を飾り棚に返して座り込んだ。
柏木は麻耶に優しく服を着せてやっている。仲睦まじい様子はつがいの小鳥のようだ。妖艶なバンプそのものの麻耶がまるで清純な少女のような様子に僕は驚いていた。
しばらくするとガタガタとリカがやってきて襖を乱暴に開けた。
「パパ〜?こらしめてやってくれたあ?」
のん気そうに言う彼女に組長は静かに「そこへ座れ」と指示する。
リカはドカッと胡坐をかいて座った。
「リカ。おめえの腹の子は誰だ」
彼女はかっと目を見開き顔色を変えると落ち着きなく目を泳がせた。
「そ、そんなの、決まってるじゃん」
見えない強いプレッシャーに耐えきれなくなったのは黒いスーツを着た三人組の中の一番小柄な男だった。
「すみませんっ!オヤジ!スミマセンっ」
頭をこすりつけるように土下座をし男は謝り続けた。
「りゅうのじ。てめえが」
かっとなった組長が木刀を振りかざす。そこへ柏木が男の身体の上に覆いかぶさり思い木刀の一撃を肩に受けた。
「ぐっ、うぅ」
「柏木!」
「あにいっ!」
「へ、平気だ」
平気ではないだろう。恐らく脱臼はしたはずだ。
「柏木さん!」
麻耶が駆け寄る。
「全くなにがどうなってやがんだ!リカ!おめえが全部話せ」
リカはしぶしぶダルそうな口を開き話し出した。