レオの女 権力の章-2
「すまんね。星樹君。来季から麗子がスクールに関わってくるもんだからやる気満々でね」
「いえ。麗子さんみたいなパワーがある人は必要ですよね」
「うーむ。若さゆえの傲慢さか強引さか……。まだまだ目先の事しか見えなくてね。その点、蘭子はさすが先々の事までよく見通してた」
玄治郎は僕の存在を忘れているかのように遠くに思いを馳せているようだ。僕の師である紅月蘭子は何人も有名な占い師を育てたが一番不肖であろう僕の占い師名に『月』の一文字と色を与えてくれた。マスコミに踊らされ有頂天になっている僕の姿を呆れる思いで見ていたに違いない。ろくな恩返しも出来ないまま彼女は亡くなった。紅月蘭子は僕にとっては育ての母であった。実母に対してもそうだがどうしてこうも親不孝者なのだろうと自分の不甲斐なさを感じていた。ぼんやり回想していると玄治郎も現実に戻ってきたかのように咳払いし立ち上がった。
「呼び出して済まないね。一応麗子を少しでいいから納得させてもらえないかな。わしとしては星樹君にはいつまでもこのスクールに居てもらえたらと思ってるんだ」
「ありがとうございます。僕も占星術家のはしくれですから、そちらのほうで頑張ってみますよ」
優しく頷く玄治郎に頭を下げ僕も理事長室を後にした。
「今日もよろしくお願いいたします」
教室の一番後ろに獅童麗子が座ってこちらを品定めするように眺めている。――よし。戦闘開始だ。
「えーっと、今日は以前お話していました、セクシャリティについての講座内容になります。もし失言がありましたらお許しください。セクハラするつもりは全くありませんから」
慎重に発言すると十数名の生徒はどっと笑って目配せをしてきた。今の生徒はすべて女性で年代は様々だが最低でも一年以上の関わりがあるため、ある程度僕のことは信頼してくれているようだ。しかし今回の内容はセックスに関することなのでいつもより言葉に気を付けようと気を引き締めた。
「ではある女性のホロスコープを用意しています。まずは外見や性格、恋愛傾向、職業の適性など前から順番にわかる範囲で答えてもらいますね。えっと伊藤さんから」
「えーっと外見は派手で人目を惹くと思います。プライドも高そうです」
「いいね。どんどんいこうか。大島さん、どうかな」
「そうですね。女王様タイプなので頭を下げる仕事は絶対無理かな。」
このホロスコープの持ち主のことを彼女たちは口々に言い始める。後ろの席で聞いている麗子が厳めしい顔でこちらを睨んでいる。そう、このホロスコープは麗子のものだ。
「はい。みなさん、いいですよ。流石勉強熱心な方ばっかりですね。そろそろ僕の教えることなくなってきちゃったかな」
「やだあ、先生」
「あはは。まだまだですってえ」
「もっと詳しく知りたいですう」
女性だけの教室は賑やかで華やかだ。
「んんっ」
麗子が咳ばらいをし、教室が静まり返った。
「では、本題に入りたいと思います。
僕がちらっと麗子に目をやると彼女は早くやりなさいと言わんばかりの様子で顎をしゃくた。
「まずこの星と星座の関係で彼女の性的な衝動を見ていきます。なかなか女性にしては能動的で堂々と男性を誘うでしょう」
生徒たちは熱心にノートを取り始める。
「感度としては反応は悪くなさそうだがプライドが邪魔をしそうだから深いオーガズムは得られにくいかもしれません。委ねることが苦手だろうからね」
理論上の解説のみとはいえ麗子を丸裸にしていくことに僕は快感を覚える。麗子はそれがよくわかるようでほんのり赤面し僕を睨みつけている。ベッドでの彼女をさんざん詳細に解説し公開で辱めるような行為はまるで性交渉そのものだ。
あっという間に講義は終わり、生徒たちはいつも以上に熱気を帯びた興奮状態でざわめいた。どうやら成功だ。今までの講座が本格的な占星術家を目指すものであれば退屈なものではないと自負していたが如何せん玄人好みの講座なのでとっつきは悪かったかもしれないし、気軽に星占いを楽しみたいものにも堅苦しかっただろう。このセックスに触れていく内容はスクールとして大っぴらに公開はしづらいだろうが人気講座にはなりうるだろう。頭を下げて教室を出ると麗子が腕組みをして待ち伏せをしていた。
「いかがでしたか?」
「まあ、残しておいてもいい講座かもね」
「何かご不満でも」
静かに尋ねると廊下を行き来する生徒たちを気にしながら麗子はメモを渡してきた。
「講座の内容を確認させてもらうわ。明日休みだわよね。午後三時にそこへ来て頂戴」
用件だけ言いさっと麗子はヒール音を高く鳴らし去っていった。